リレー連載 冤罪・再審 全国縦断レポート<br>第1回

リレー連載 冤罪・再審 全国縦断レポート
第1回

飯塚事件(第2次再審請求)

高裁が一件記録一覧表の開示を検察に勧告

岩田 務 飯塚事件主任弁護人

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 袴田事件では、袴田巖さんは再審無罪判決で雪冤を果たした。しかし、飯塚事件、大崎事件、日野町事件などは再審請求中。全国にはいまだ多くの冤罪・再審事件があり、弁護団の努力にもかかわらず、その救済は取り残されている。各事件の最新の動きを弁護団に報告いただく。(編集部)

1 飯塚事件

 1992年2月20日、福岡県飯塚市で、登校途中の小学校1年生の2女児が行方不明となり、翌日2人の遺体が発見された事件である。

 2年半後に、近くに住む久間三千年さんという、56歳の男性が逮捕された。

2 確定審判決

 確定審の福岡地裁判決(1999年、陶山博生・重富朗・柴田寿宏各裁判官。LEX/DB28055117)は、①被告人と犯人を結び付ける直接証拠はなく、②個々の情況事実は単独では被告人を犯人と断定できないので、情況事実を総合評価するとして、7つの情況事実を指摘した。

 その上で、それらの諸情況を総合すれば、被告人が犯人であることを合理的な疑いを超えて認定できるとした。

 それらの情況事実を支える情況証拠のうち、中心的な柱は、Ⓐ犯人と久間さんの型が一致したとする、科警研のMCT118型DNA鑑定と、Ⓑ遺留品発見現場付近で怪しい車と男を目撃したとする、T供述であった。

 確定審では、1999年9月29日に福岡地裁、2001年10月10日に福岡高裁(小出錞一・駒谷孝雄・松藤和博各裁判官。LEX/DB28085513)、2006年9月8日に最高裁第2小法廷(滝井繁男・津野修・今井功・中川了滋・古田佑紀各裁判官。LEX/DB25442998)で死刑判決が出て、同年10月8日に死刑が確定した(9月の判決後、弁護人が判決訂正の申立をして、それが棄却されて10月8日に確定)。そして、そのわずか2年後、2008年10月28日に死刑が執行された。

3 第一次再審の請求審

 死刑執行から1年後、2009年10月28日、久間さんの遺族が、第一次再審請求を申し立てた。

 第一次再審の新証拠は、①本田(克也)鑑定と、②厳島(行雄)鑑定であった。福岡地裁(2014年3月31日、平塚浩司・吉戒純一・岡本康博各裁判官。LEX/DB25503208)は、つぎのように両鑑定の明白性を認めず、請求を棄却した。

 本田鑑定(新証拠の1)

 本田克也教授による、MCT118型DNA鑑定のネガフィルムの分析から、それまで闇に隠されてきた、驚くべき事実が明るみに出てきた。
 科警研の技官らは、①ネガフィルム中の、彼らが犯人のものとするバンドとは、全く別のバンド(これも別の犯人のバンドである可能性がある)が出現している箇所を、意図的に切り取る変造を施した写真を、実験結果を示す写真として、鑑定書に掲載していた。②また、それとは別に科警研DNA鑑定の実験そのものが失敗していた事実を隠ぺいする目的で、ネガフィルムを暗く焼き付けて、失敗の証拠となるバンドを見えなくするという変造も行っていた。

 これらの行為は、科学的証拠の証明力を毀損する行為であり、証拠隠滅罪の証拠の変造にあたる行為である。
 それゆえ、福岡地裁の裁判官は、このような犯罪的な改ざんが行われているDNA鑑定については、「証拠能力なし」と判断すべきであった。
 ところが、裁判官は改ざん行為とは全く別の、MCT118型鑑定に固有の技術的欠陥を取り上げて、本件MCT118型鑑定は「事実上証明力が減殺されている」とするにとどめた。「科警研技官らによる証拠の捏造」という重大問題を不問に付すために、確定審以来、弁護人がどれだけ主張しても無視し続けてきた上記欠陥を突然持ち出し、問題を矮小化したのである。

 厳島鑑定(新証拠の2)

 厳島鑑定はT供述の信用性を否定する鑑定である。
 T供述とは、遺留品発見現場付近で、怪しい車と人を目撃したとする供述である。その車が久間さんの運転していた車と酷似しているとされた。

 厳島教授は条件を変えながら、3次にわたって、延べ90人近くの被験者に、T証人が目撃した現場で、運転しながら目撃した事実を語ってもらうという、実験心理学に基づく実験を行った。
 T証人は、見通しのきかないカーブが連続する急な下り坂の山道を時速25~30キロで走行中、数秒間、目撃しただけである。にもかかわらず、異様に詳細な、20個近くの目撃事実を目撃から18日後の員面作成当日まで記憶していた。90人近くの被験者が2つか3つの事実しか記憶できなかったという実験結果と比べると、T証人は人間の認識能力をはるかに超える供述をしていた。厳島教授は、T証人が、自分の体験してない事実を述べており、T証言は信用できないと鑑定した。

 しかし、福岡地裁は、㋐T証人の目撃と、厳島実験における被験者の目撃は条件が違うなどと、実験心理学の実験の意味を全く理解していない理由や、㋑厳島鑑定の引用する科学論文が外国の論文であるなどという、意味不明の理由を付けて、厳島鑑定の明白性を認めなかった。

 T証言については、捜査官から誘導が行われていることが誰の目にも明らかである。にもかかわらず、福岡地裁の裁判官は、なお、T証言は信用できるとした。
 その背景としては、本件では、DNA鑑定に信用性がないとされている。その上、T証言までもが信用できないとなると、確定審で久間さんの有罪を支えてきた証拠の柱が総崩れとなる。そうすると、国が無実の久間さんを殺したのではないかという恐ろしい問題に直面してしまう。それだけは何としても避けたかったため、誰が見ても、おかしな事実認定をあえて行ったものと考えられる。

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(2024年12月06日公開)


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