当番弁護士発足32年、司法制度改革から20年、裁判員裁判施行15年──、さまざまな刑事司法制度改革があり、現在も進行中。そうした中で、各地の弁護士会や弁護士は、刑事弁護にどう取り組んでいるのか。リレー連載で報告をいただく。(編集部)
1. はじめに
本稿では、宮城県内・仙台弁護士会における刑事弁護活動の実情と課題を紹介する。2.でその概要を述べ、3.では筆者が課題の1つと認識している当番弁護士および国選弁護人の担い手の問題について述べる。
2. 宮城県内・仙台弁護士会における刑事弁護活動の実情
⑴ 仙台弁護士会および裁判所の概況等
仙台弁護士会に登録している弁護士は、本庁および各支部の会員を合わせて2024(令和6)年4月2日時点で496名である。刑事事件を取り扱っていない会員も一定数いるものの、比較的多くの弁護士が何らかの形で刑事弁護活動に関与している。なお、刑事弁護委員会(委員長:阿部潔)に所属している弁護士の人数は、2024(令和6)年5月8日時点で50名である。
他方、裁判所の構成に目を向けると、仙台地方裁判所には本庁のほか大河原、古川、石巻、登米および気仙沼に支部が設けられている。本庁から最も遠方にある気仙沼支部に本庁から車で移動する場合、片道約2時間はみる必要があり、その他の支部も本庁からは概ね車で1時間前後を要する。このほか、仙台高等裁判所に東北各地からの控訴事件が係属するため、仙台弁護士会の会員は控訴審(仙台高等裁判所秋田支部に係属するものは除く)の国選弁護人としての活動も行っている。なお、仙台地方裁判所管内における2023(令和5)年の訴訟事件(略式事件を除く)の新受件数は1,121件であり1)、そのうち裁判員裁判の新受件数は16件である2)。
⑵ 弁護士会の活動・諸制度等
刑事弁護に関する仙台弁護士会の活動・取組みをいくつか紹介する。
第一に、裁判員裁判対象事件に関して述べる。同裁判対象事件については、国選弁護人が選任される事件であれば、被疑者段階から複数選任を求めること、および、複数選任される弁護人の少なくとも一方は①裁判員裁判の公判を経験しており、かつ②所定の研修を受講した弁護士がすることをガイドラインで定めるなどして、適正な弁護活動が行われるように取り組んでいる。②の研修は、近年では年2回実施しており、このうち1回は東京・大阪等から著名な刑事弁護人を講師として招聘し、主として裁判員裁判を念頭においた公判弁護活動について講義をいただいている。別の1回の研修では、裁判員裁判に関する基礎知識の確認を行うほか会員が担当した裁判員裁判の経験交流を行っている。
裁判所・検察庁も関係している裁判員裁判関係の取組みとして概ね年2回開催されている法曹三者手続検討会があり、証拠開示から公判までを通じた幅広い議題が協議されている。また、近時裁判所が、裁判員裁判終了後に法曹三者で行っている「振り返り会」に担当弁護人以外の弁護士の出席も認める運用を開始したため、今後裁判員裁判の経験共有が進んでいくことが期待される。
第二に、裁判員裁判非対象事件でも利用できる制度としては、「刑事弁護等基金」が用意されている。この制度は、私的鑑定における鑑定書・意見書の作成費用や専門家証人の出廷費用相当額を仙台弁護士会が担当弁護人に貸し付けるというものであり、被疑者国選事件の範囲拡大や裁判員裁判の開始に備えて2008(平成20)年から運用されている。貸付金は一定の要件のもとで返還が免除されることとなっており、実際のところは多くの場合返還が免除されている。
このほか、裁判員裁判非対象事件であるか否かを問わず、重大事件の国選弁護人から要請があった場合には会が「支援弁護士」を選定する制度が設けられている(国選弁護人として複数選任が認められなかった場合は会が報酬等を負担する)。
第三に、いわゆる人質司法に関する取組みとして、2023(令和5)年10月1日から同年12月31日までの間、「不必要・不相当な勾留をなくそうキャンペーン」が実施された。これは、仙台地検管内の勾留請求却下率が全国平均を下回ってきたこと等に鑑み、弁護人において身体拘束解放のための活動への意識を高めること等を目的としたものであり、キャンペーン期間中には「やってみよう準抗告~準抗告等の成功事例とコツ~」と題した研修会を実施した。提出された結果報告書では、勾留請求阻止や勾留請求却下、準抗告認容等について一定の成果が報告されている。
第四に、東北弁護士会連合会も関与している活動としては、東北6県の若手弁護士が自らの刑事弁護活動を発表する刑事弁護経験交流会がある(基本的には年1回開催)。
⑶ 有志の弁護士が関与しているもの等
刑事弁護活動に寄与することを主たる目的としていないものも含め、仙台弁護士会の弁護士が関係している刑事弁護に関係する活動等の一例として以下が挙げられる。
障がいのある被疑者・被告人の弁護活動については、有志の弁護士と社会福祉士等が協働する団体「チーム仙台」が精力的に取り組んでいる。
また、各種依存症問題(主としては薬物依存)については、薬物依存症地域支援者ネットワーク協議会が取り組んでいる。同協議会は仙台保護観察所が中心となって運営しており、仙台ダルクや、東北地方の中でも依存症の治療に特に注力している東北会病院など多くの関係機関(仙台弁護士会を含む)が担当者を派遣している。現在のところ、月1回程度定例の協議会を開催して情報交換を行うほか、相互に研修を実施したり、各種の啓発活動を行っている。
このほかにも、事件相談等に利用される非公式のメーリングリストや、弁護士以外も含む若手法曹が参加する非公式の勉強会が存在する。
3. 近時の課題──当番弁護と国選弁護の担い手
当会で課題となりつつあると筆者が個人的に感じている事柄として、当番弁護士3)と国選弁護4)の担い手をどのように確保するかという問題がある。定量的な分析も進んでおらず会内での議論も不十分であるため、以下は私見であることをお断りしておく。
仙台弁護士会では、当番弁護士名簿に登録すると、標準的には半年の間に3回程度当番弁護士の担当日が割り振られる。もっとも、割り振られた担当日は、非公式のメーリングリスト等を通じて引取り・交換が行われ、弁護士間で融通されているのが実情である。
この引取り・交換により、一部の弁護士が多数の当番弁護担当日を抱えることになったり、(その結果であるかは不明だが)当番弁護士としての接見はするものの、それに引き続く国選弁護人は引き受けないという状況が目に付くようになっている。一時期は、主として遠方の支部の事件について国選弁護人の引受け手が見つからず、国選弁護人の選任が遅延しているように見受けられることもあった。
以上からすると、当番弁護等を取り扱わない弁護士が増えたこと等の要因により、1人の弁護士が適正な弁護活動を行いうる限度を超えた身柄事件を引き受けることとなっていないか、弁護人の選任がスムーズに行われず被疑者に不利益が生じていないかといった点について懸念が生じてくる。
これらの問題への対策としては、当番弁護士として接見した場合の被疑者国選受任をより強く義務付けていく、ないしは引受け手がいない被疑者国選事件を掬い上げて受任するチームを作るといったものが考えられる。しかし、前者の方向は弁護士の負担が増加してしまうことで当番弁護士名簿の登録人数そのものの減少を、後者の方向は「自分が断っても彼らが受任してくれる」という一種のモラルハザードを招来しかねないというデメリットを有していると思われる。
根本的には、被疑者国選の報酬をより増額するなどして国選弁護人となることのインセンティブを高めていくことにより刑事事件を取り扱う弁護士の裾野を広げていくことが必要であると思われるが、法テラスが大幅な報酬引上げを行うかについては疑問がある。そのような中で、当番弁護士制度を実効的な弁護活動の端緒として持続していくためにどのような手段を採り得るかということが仙台弁護士会の現実的な課題として表れてきていると感じる(なお、一斉登録時ないしこれと近接した時期に仙台弁護士会で弁護士登録を行う弁護士は、ここ数年10名前後である。当番弁護等の刑事弁護活動の担い手の確保はもとより、刑事弁護委員会等弁護士会としての活動の担い手の確保も課題の一つと思われる)。
4. おわりに
以上述べたとおり、仙台弁護士会及びその同会に所属する弁護士は、課題を抱えつつも、日々水準が向上していく刑事弁護活動のスタンダードをクリアし、またスタンダードを引き上げていくための活動や、必ずしも「刑事弁護」の枠にとらわれることなく、被疑者・被告人の利益のために様々な活動を行っている。
筆者の知識不足や紙幅の関係で言及できなかった事柄も多くあるが、本稿がこれらの活動の紹介の一助となっていれば幸いである。
注/用語解説 [ + ]
(2024年11月08日公開)