連載 再審法改正へGO!

連載 再審法改正へGO! 迅速・確実な冤罪救済のために
第13回

法改正に向けて動きだした国会議員たち

鴨志田祐美(日弁連再審法改正実現本部 本部長代行)


1 はじめに

 本連載では、おもに2023年2月に日弁連が公表した「刑事再審に関する刑事訴訟法等改正意見書」をもとに、再審制度にどのような法改正が求められているのか、具体的な条項案に沿って解説してきました。

 では、現在、再審に関する法制度の問題点や改正の必要性について、立法府たる国会を構成する個々の議員たちはどう考えているのでしょうか。

 今回は、この3月に再審法改正の実現をめざして国会内に設立された超党派議員連盟とその活動についてご紹介します。

2 超党派議員連盟の設立

 2024年3月11日、「えん罪被害者のための再審法改正を早期に実現する議員連盟」(以下、「議連」といいます)が発足、設立時の入会議員数は134名に上りました。議連の会長には自民党の柴山昌彦衆議院議員、幹事長には立憲民主党の逢坂誠二衆議院議員、事務局長には自民党の井出庸生衆議院議員が就任しました1)。最高顧問には麻生太郎・自民党副総裁、顧問には山口那津男(公明党)、泉健太(立憲民主党)、馬場伸幸(日本維新の会)、田村智子(共産党)、玉木雄一郎(国民民主党)、前原誠司(教育無償化を実現する会)、福島瑞穂(社民党)、大石あきこ(れいわ新選組)の各党党首が名を連ねるという、類を見ない大型の超党派議員連盟となりました。

 議連の設立総会で記念講演を行ったのは、2014年3月27日に袴田事件の再審開始決定をした静岡地裁の当時の裁判長で、現在は日弁連再審法改正実現本部のメンバーとして活動する村山浩昭弁護士でした。村山弁護士は、設立総会に出席した60名を超える議員を前に、袴田事件が再審開始に至るまで43年もの歳月を要したのは、法の不備が原因であることを説明し、「これ以上、再審の壁に阻まれて苦しむ冤罪被害者を出さないという、時代の責任を果たしていただきたい」と語りかけました。

3 議連総会でのヒアリング

 第2回以降の議連総会では、再審に様々な立場からかかわっている関係者からのヒアリングが行われることになりました。4月9日に開催された第2回総会では、法務省と日弁連がそれぞれの主張をプレゼンし、国会議員からの質疑を受けました。

 法務省は、ひとくちに再審請求事件といってもその内容は千差万別であり、審理の進め方は裁判所の広範な裁量に委ねるべきこと、現在「改正刑訴法に関する刑事手続の在り方協議会」で、再審における証拠開示の問題も検討しており、その議論を見守るべきであるなど、これまでの主張に終始しました。一方、日弁連は、袴田事件の経過を具体的に示し、再審法の不備による著しい救済の遅延は立法事実であり、もはや運用で改善することは不可能であること、事件が多様であっても再審請求が法令上の方式に違反している場合や、申立書や添付書類等に照らして明らかに再審開始要件を満たさない場合には、証拠開示手続に進むことなく、ただちに再審請求を棄却するといったスクリーニング等の立法技術によって法改正は可能であることなどを訴えました。

 終了後のマスコミへのブリーフィングにおいて、議連の柴山会長は、議員からの質疑の際、ある議員が「法務省の主張には説得力がなく、日弁連の主張はすべて胸に落ちた」と述べたことを引いて「多くの議員がこのように感じていたと思う」と述べました。

 4月25日の第3回総会では、最高裁からのヒアリングが行われました。最高裁は立法には立ち入らないというスタンスから法制度の概要と統計データを示すにとどまりましたが、議連からの要請を受けて出席していた衆議院法制局の第一課長が、議員からの質問の趣旨に賛同する形ではありましたが、現行法の再審規定が通常審に比べて明らかに不十分で、憲法の要請を充たしていない可能性があることを肯定しました。このとき、法制局は資料として、現行刑訴法における通常審と再審請求におけるそれぞれの手続規定の対照表を作成して議員に配布していましたが、それは再審請求段階の手続規定の圧倒的な少なさが、一見して伝わるものでした。

 5月16日の第4回総会は歴史に残るイベントとなりました。日本の大正刑訴法に倣って刑事司法制度を構築した台湾で、2015年、2019年の2度にわたる再審法改正が実現した際、当時の立法委員(日本の国会議員)として主導的な役割を果たした尤美女弁護士(現・台湾全国弁護士連合会理事長)が登壇し、台湾における再審法改正のプロセスについて詳細な講演を行いました2)。行政機関の抵抗、与野党の対立の中での攻防を経て、法改正を実現させたこと、法改正によって法曹の意識が変わり、最高裁判例に「もしある人が無実にもかかわらず、罪を着せられ、不当に取り扱われていたら、国家はすべての力を尽くして救済しなければならない」という宣言が盛り込まれたこと3)など、これから法改正を目指す日本の国会議員たちにとって力強いエールとなる内容でした。

 6月13日に開催された第5回議連総会では、袴田事件の当事者・袴田巖さんの姉、ひで子さんと、布川事件の当事者・故櫻井昌司さんの妻、恵子さんからのヒアリングが行われました。二人は、冤罪被害当事者をもっとも近いところで支え続けた家族として、雪冤までの長すぎる年月と、費やされた膨大な労力が、どれほど巖さん、昌司さんを苦しめたかを切々と語りました。そして、ひで子さんは「2度と弟のようなことが起きないよう法改正に協力をお願いします」、恵子さんは「(再審法改正について)夫は『簡単だよ。法律を作る国会議員に必要性と緊急性を理解してもらえるよう説得すればいいんだよ』というのが口癖でした」と、それぞれの言葉で一刻も早い再審法の改正を国会議員に訴えました4)

4 法務大臣への「要望書」の提出

 第5回の議連総会の時点で、議連に加入した国会議員の数は308名にまで増加しました。通常国会の会期末が迫った6月17日、議連は小泉龍司法務大臣に対し、「大臣のリーダーシップのもとで、過去の再審無罪事件について第三者を交えて検証するなど、迅速かつ積極的に議論を進め、最後の救済制度にふさわしい再審法制を構築し、国内外から一層信頼される刑事司法制度の確立に邁進するよう強く要望する」という内容の要望書を提出しました5)。その中で、4回のヒアリングを経て議連が共有した問題点として、以下の4点を指摘しました。

① 過去の著名な再審事件において証拠開示が不十分で、著しく遅かったこと
② 再審に関する手続規定が刑事訴訟法にほとんど置かれてないこと
③ 除斥・忌避が再審に適用されないことは公平性を欠くこと
④ 検察官抗告による手続の長期化

 これらの内容は、すべて日弁連意見書において具体的な改正提案を行っているものばかりです。また、要望書において、議連が法務大臣に速やかな法改正への検討を求める一方で、「議員立法という選択肢も視野に今後の議論を深めていく覚悟を共有した」との決意を述べている点にも注目すべきです。

5 今後の課題

 再審法改正について、ここまで大規模な超党派議連ができあがり、活動している状況は、1年前には予測もできないことでした。しかしその一方で、今国会の本会議、予算委員会、法務委員会で与野党双方の議員から繰り返し再審法改正の必要性が問われたにもかかわらず、法務大臣や政府委員(法務省刑事局長)の答弁はきわめて消極的なままです。

 袴田事件の再審無罪判決が言い渡されるであろう9月26日に向けて、議員立法も視野に入れた具体的な法案づくりや、議連を強力に後押しする世論醸成のためのさらなる活動などを加速させる必要があり、この夏はまさに「天王山」となりそうです。


【関連記事:連載「再審法改正へGO!」】
第12回 袴田事件再審公判と法改正の必要性
第11回 再審における「前審関与」問題
第10回 名張事件にみる再審法の不備と日弁連の改正案 その2

注/用語解説   [ + ]

(2024年07月05日公開)


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