【第8回】公判調書の閲覧・謄写は、いつ・どのようにするのですか。 その内容に間違いがあった場合、訂正を求めることができるのでしょうか。


【解説1】 弁護人は、公訴の提起後は、裁判所において、「訴訟に関する書類」および証拠物を閲覧し、かつ謄写することができます(刑事訴訟法40条1項本文)。公判調書は、この「訴訟に関する書類」に含まれます。

 公判調書の作成は、各公判期日後速やかに行い、遅くとも判決を宣告するまでに整理するのが原則とされています(刑訴法48条3項本文)。例外として、①判決を宣告する公判期日の調書の整理については、当該公判期日後7日以内に整理するほか、②判決宣告期日以外の公判期日の調書については、公判期日から判決宣告期日までの期間が10日に満たないときは当該公判期日後10日以内(公判期日から判決宣告までが3日未満であれば、判決宣告期日後7日以内)に整理すれば足りるとされています(同項但書参照)。

 つまり、公判調書の閲覧・謄写ができる時期は、上記の期間内に書記官による作成・整理ができて以降ということになります。実際の具体的な時期については、書記官に見込みを確認することで把握することができるでしょう。

 公判調書を閲覧するには、記録閲覧室がある裁判所では記録閲覧室において、記録閲覧室がない裁判所では担当部において申請し、裁判所の許可を得ることになります。閲覧には費用はかかりません。

 謄写については、閲覧申請の際に謄写の許可も得ていれば、その場において有料のコピー機でコピーを取るか、または持参したカメラ等で撮影することができます。弁護人が閲覧または謄写を申請した場合に、裁判所の許可が出なかった事例は、裁判所が記録を使用している場合を除いては経験したことがありません。

 なお、申請をしてから閲覧・謄写の許可が出て、実際に記録が届けられるまで、少なからぬ時間がかかることがしばしばあります。たとえば東京地裁では、申請してから記録が記録閲覧室に届くまで、10分〜15分かかることがよくあります。閲覧・謄写に赴く場合には、相応の時間の余裕をもっていくか、あるいは裁判所の許可までの時間を短縮できるよう、閲覧に赴く日時と閲覧したい範囲を事前に係属部に伝えておくとよいでしょう。そうすることで、記録を裁判所が使用しているために閲覧・謄写が許可されないという事態も回避することができます。

 司法協会の出張所がある裁判所にあっては、司法協会で申請を行えば、謄写の代行を依頼(委任)することが可能です(司法協会への申請と併せてまたは別途に、上記の閲覧・謄写申請も行いますが、各申請を併せて行うことができるか別途に行うかは、各地によって扱いが異なります)。なお、謄写の代行については、司法協会ではなく弁護士会が代行を行っている地方もあります。謄写の代行を依頼する場合には、代行についての費用が発生します。

【解説2】 公判調書が未整理であった場合はどうなるのでしょうか。

 当事者は、公判期日における的確な攻撃・防御の準備をする上で、前回の公判期日における審理の経過および結果を知る必要があります。そこで、その前回の公判調書が未整理の場合には、当事者は書記官に対し、前回の公判期日における審理の内容や証人の供述の要旨を告げるよう請求できるとされており、請求した当事者はその正確性について異議を申し立てることができます(刑訴法50条1項参照)。

 もっとも、実務上は、公判調書としては未整理であっても、証人等の供述の速記録が作成されているときには、当事者に事実上その速記録を閲覧謄写させている例もあります。

 なお、裁判員裁判においては、証人尋問等の証拠調べについては記録媒体に記録することができるとされており(裁判員法65条1項参照)、具体的には証人尋問や被告人質問の録音を記録した媒体が提供されています。

【解説3】 公判調書の記載に誤りがあった場合、どうすればいいのでしょうか。

 公判調書の記載の正確性を確保するため、当事者は、公判調書の記載の正確性について異議を申し立てることができます(刑訴法51条1項前段)。

 異議申立ての方式は、書面または口頭のいずれの方式でもよいとされており、公判期日に申し立てることもできますが、裁判長が公判期日外で申立てを行なうよう訴訟指揮をすることもできるとされています。

 ところで、公判期日における訴訟手続で公判調書に記載されたものは、公判調書によってのみ、証明することができるとされています(刑訴法52条。「排他的証明力」とも呼ばれます)。公判調書の記載について異議が申し立てられた場合、公判調書中の当該事項の記載の証明力については、そのすべてが失われるわけではありません。公判調書についての異議申立ての内容と公判調書の記載のいずれが真実とみるかは、上訴審の自由な心証に委ねられることになります。

【解説4】 公判調書についての異議申立てはいつまでにすればよいのでしょうか。

 公判調書についての異議申立ては、基本的には、遅くとも最終の当該審級における最終の公判期日後14日以内にしなければなりません(刑訴法51条2項本文)。ただし、判決を宣告する公判期日後に整理された調書については、整理ができてから14日以内に異議申立てをすることができます(同項但書、48条3項但書)。この期間内に申立てをしないと、当事者は異議申立権を失い、当該公判調書に記載された訴訟手続について排他的証明力が生じる(刑訴法52条)ことになりますので、注意しましょう。

 なお、経験上、公判調書に軽微な誤りがあった場合の当事者の対応として、正式な異議申立てによるのではなく、書記官に連絡して誤りを伝え、自発的な更正を促したこともあります。ただし、これは正式な異議申立てではないため、書記官が自発的に更正しなかった場合には排他的証明力が維持されてしまうので、その場合には正式に異議を申し立てることを検討してください。

(2023年04月07日公開)


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