連載 刑事司法における IT 利用の光と陰

刑事司法におけるIT利用の光と陰
第7回

裁判情報の公開(上)

指宿信 成城大学教授


1 はじめに

 2006年秋、著作権法違反や不正競争防止法に関する民事裁判の判決文が裁判所Webで公開中に突如削除されました。この判決は、東京地裁民事第46部(設楽一裁判長)が2006年4月27日に下したものです。ウェブからの判決文の抹消は「消えた判決」などとしてネットでも報じられる事態になりました((「消えた判決 裁判所ウェブ」https://facta.co.jp/article/200702052.html 裁判所ウェブで削除された後も、この判決は商用データベースでは見ることができます。)) 。一旦裁判所が自身のウェブで公開した判決文を削除するというような事態は異常としか思えませんが、裁判所サイトには削除についての説明が公表されることはありませんでした ((その後、民事判例については秘密保護の制限のため閲覧等の制限の申し立てがあった場合(民事訴訟法92条2項)や性犯罪・DV事件に関する損害賠償請求訴訟等、刑事判例については性犯罪事件や少年事件について公開制限があると公表されている。「下級裁判所判例集に掲載する裁判例の選別基準等について(平成29年2月17日付最高裁判所事務総局広報課長等の事務連絡)」。))。

 法曹には周知ですが、判決の中でも判例集や判例雑誌に掲載されたりウェブで公開されたりするケース(最高裁のものですら)は非常に少ない数にとどまっています。このことは、この国には膨大な数の未公刊判例(本稿では狭義の“判例”と“裁判例”をまとめて“判例”と呼びます)が存在することを意味します。

 以下の表はインターネットが商用開放された1996年当時と四半世紀後の2020年の最高裁判決の公開率を比べたものです……

(2022年12月17日公開)


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