漫画家・浅見理都が刑事弁護人に聞くザイヤのオオカミ

第2回 市川寛弁護士に聞く(4)

検察の手の内を知る弁護士

信念と客観性のバランスをとる


被疑者・被告人と弁護士との距離感

 弁護人になってから、被害者やその被害者遺族との対応において、何か気をつけていることはありますか。

 示談のやり方って難しいですね。僕もまだ勉強が足りません。なんでも、弁護人が被疑者・被告人に代わって被害者に謝るべきかどうかは、刑事弁護をやっている弁護士の中でも結構意見が分かれるそうです。「少なくとも、弁護人は謝る立場ではない。中立であるべきだ」みたいに言うベテランの方は多いですが、僕はすぐに謝ってしまいますね。

 僕の大学の先輩の中には、被害者に土下座までした人もいます。むしろ、させられたのかな。ところが、それで被害者に惚れられて、その人の顧問になったそうです。

 それで仕事が来ることがあるんですか。

 今のエピソードは数少ない例外でしょうね。いきなり弁護人が謝ったりすると、「あんたに謝られてもしょうがない」と反感を持たれて話がこじれることもあるでしょう。ただ、アポを取った段階では相手がどんな人かがわからないので、話の切り出し方がものすごく難しいです。

 じゃあ、現地に行って、直接相対してから対応を決めているんですか。

 そうですね。そもそも被害者に電話をかけるのは、むちゃくちゃ気を使います。その人にとって都合のいい時間帯が読めません。

 電話は難しいんですね。

 「午後の6時か7時ぐらいなら、まあ仕事は終わっているのかな」と思いきや、「なんだ、こっちはまだ移動中だ」とか怒られて、そこで機嫌が悪くなったら元も子もありません。そういう意味ではいくら神経を遣っても遣い切れないところがあります。検察官のときは、そういう苦労は全然ありませんでした。

 そうですよね。検察官に「謝る」はないですからね。

 先ほど「検察官は誰の味方でもない」と言ったことの裏返しみたいなもので、理屈としては誰にも謝る必要がないですから。「どうもすいません」と、上司に口だけは謝っているけど、悪いと思って謝ったことはないみたいな。

 弁護人をやっていると、被害者への対応は難しいですよ。

(2021年05月17日公開) 

インタビュイープロフィール
市川寛

(いちかわ・ひろし)


1965年、神奈川県生まれ。中央大学卒。1990年に司法試験(第45期)に合格し、1993年検事任官。2000年から佐賀地検に三席検事として勤務し、佐賀市農協背任事件の主任検事を務める。同事件の被疑者に不当な取調べを行ったことについて法廷で証言し、大きく報道される。その後、被告人は無罪となった。2005年に辞職し、2007年弁護士登録。
 著書に『検事失格』(毎日新聞社、2012年)、『ナリ検』(日本評論社、2020年)などがある。

インタビュアープロフィール
浅見理都

(あさみ・りと)


漫画家。1990年、埼玉県生まれ。『第三日曜日』で第33回MANGA OPEN東村アキコ賞を受賞。『イチケイのカラス』は自身初の連載(モーニングで連載、2018年24号〜2019年14号)。


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