ゴーン事件弁護士事務所の 捜索差押えと押収拒絶

拒絶権をめぐる弁護士と検察の攻防


16 慎重な令状発付を求める

大出 検察がさらに捜索差押えということで対応してくることはたぶんないのだろうと思いますが、法律事務所ヒロナカとしては、今回の事態に対して法的措置をとることで考えられていることや、それを考えるうえで、何か必要なことはありますか。

弘中 とるべき法的手段として考えられるのは、国家賠償訴訟です。そのときに、検察はもちろん対象になるわけですが、裁判官の行為の違法を入れるかどうかは悩ましいところです。今回のことで、日弁連東京弁護士会など多くの弁護士会から抗議声明を出していただいているのですが、裁判官の令状発付の違法を問題にした単位会もいくつかあります。

 ですから、そのことを視野には入れているのですが、裁判官の違法を問題にして、いわば裁判所を敵にするのはなかなか厳しいところもあります。また、かえって論点や対象が拡散するかなという心配もあります。

大出 さっきの議論からすると、令状発付自体が裁判所の違法とまでいえるかどうかは別として、問題提起はしておくべきでしょう。

弘中 今回の件では、裁判所にも配慮がないという気はするんですが、配慮がないことが直ちに違法と言えるかというと、そう簡単ではないという気がします。

大出 結果的には、実質的に押収したものはなく、それは弁護士側の主張が確認されたということでしかなかったわけで、経緯からすれば、裁判所は押収拒絶が予測され、鍵を壊すだけで終わるような捜索差押え令状を発付することには慎重であるべきだということになるのではないでしょうか。少なくとも、今回の2回目の令状は出すべきではなかったと言わざるをえません。

17 今後の課題

大出 最後に今後の課題について伺って終わりにしたいと思います。

弘中 冒頭でも少し言ったことですが、私は、この問題を契機に、弁護士側において、包括的な秘匿特権の問題を考えるべきだと思います。押収拒絶権だけでなくて、秘密交通権なども含めた、もうちょっと包括的な秘匿特権を構築したいと思います。たとえば、現在の弁護士の押収拒絶権だけですと、被疑者・被告人の手元に弁護人とのやりとりを記録したものとか、弁護人に伝えようとしてまとめたものなどがあっても、それを被疑者・被告人が押収拒絶することは困難だと思います。しかし、そのようなものも含めて、弁護人と被疑者・被告人とのやりとりについては包括的に、強く秘密が守られるべきと思います。そのようにしていかないで、拒絶権を何か例外的な、受け身的な位置づけにしてしまうとちょっと消耗だなと思います。

大出 今回の事件をきっかけに、それができるといいと思います。

後藤 現行法の押収拒絶権の条文は、必ずしも論理的に整備されたものではないと思うので、押収拒絶権の行使を保障できるような解釈の運用を確立する必要がある、それが今後の課題でしょう。

大出 今回の事件は、社会的にも注目されていますし、弁護権のあり方を考えるうえでも、非常に重要な事件だったことは間違いありません。実害がまったくなかったことにはならないかもしれませんが、とりあえず、弁護士の方たちがそれなりの対応をされて、押収拒絶権というものの実効性が確保されたことになるかもしれません。その意味を踏まえて、あらためて法的な対応態勢、整備も含めて、議論が深まることになればと思います。

 ありがとうございました。

(2020年05月07日公開) 


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