14 押収された場合、準抗告での対応は可能か
大出 ただ、現実の問題として、刑事弁護の現場を考えたときに、そんな悠長なことも言っていられないというのも事実だと思います。
それで、もう1つ問題は、もし持っていかれたときに、事後的に、どう対応するかというときに、準抗告で対応するしか手がありません。しかし、準抗告で戻ってきたからといって、その意味は、実質的にはほとんど失われてしまう。
後藤 それは、今の準抗告制度そのものが持っている問題点です。
大木 違法収集証拠という、押収拒絶権を侵害したような手段によって得た証拠は、収集証拠の証拠能力なしというような考え方はありうるのですか、それとも、そこまでの違法性はないということになるのですか。
小佐々 毒樹の果実のように、そこから派生するものも含めてということですね。
後藤 明確に、「押収拒絶します」と弁護士が言っているのに、それを差し押さえたという典型的なケースを考えると、排除までいくかもしれませんね。
大木 いろいろな段階があると思います。たとえば押収を受けた弁護士が、まさにその事件の被告人の弁護人である場合、非常に違法性が高いと思います。ただ、関係ない事件の関係ないものを拒絶する場合、一応、拒絶の対象にはなるけれど、ちょっと関連性が低いというか、違法性が低いということになるかもしれません。
後藤 たとえば共犯者、それが弁護士の依頼者ではなくて、共犯者の立証に使われるような事例ですか。そうなると、排除の申立適格の問題になります。
大出 ただ、今までそういうケースが問題になったことはないですね。
後藤 その判例は知りませんね。
大出 押収拒絶権の行使自体が、今回のような形で表立って議論になること自体がほとんどありませんでした。だいたいは任意提出してしまうとか、そういうことで事は済ませている。先ほどの折衷説みたいな話で、妥協的なところを探って事態は収まってしまうということで、正面から争うことにはなかなかならないということでしょうね。
小佐々 実際、今回も実害はないわけです。ただ、弁護士として、絶対譲れないラインがありますし、依頼者を護るのは弁護士としては義務ですから、実害があろうがなかろうが、やれることはやらないといけないという場面ではあります。
大出 今回、その限りでは、押収拒絶権が実質的にはちゃんと確保されたことになるわけですね。
弘中 そうですね。
大出 そこは確認しておく必要があると思います。
弘中 それは大きいと思います。社会の人、みんなが弁護士の行動を見ていますから。あの弁護士は捜索押収令状に対して押収拒絶権を行使しないでみんな持っていかれちゃったというのと、あの弁護士は、令状に対して、体を張って全部拒否したというのでは、社会的評価は大いに違うでしょうからね。
大出 そこから見えてきたこととして、だったら捜索だってできないはずではないかとなります。結局、検察のやったこととして、意味のあったことは何もないのだ、ただ鍵を壊しただけではないかということにはなるわけですね。
小佐々 そうですけれど、押収拒絶権が全うできたというのを評価しづらいのは、今回検察が事務所内を捜索したことを、われわれは承服できないからです。
大出 そうかもしれませんが、結局、押収できるものはなかったことは明らかになった。つまりそれは押収拒絶権を行使したことが、実質的に正当であったことを証明することになったと言えるわけです。捜索したことには意味がなかったことがはっきりしたわけですから、押収拒絶権を行使した場合には、捜索すべきではないという弁護側の主張を実質的に根拠づけることになったと思います。
ですから、弁護士事務所の捜索差押許可状の発付にあたっては、裁判官が「押収拒否権が行使され場合、令状の執行は行わないこと」との条件を付けることを考えるべきだとする主張(渡辺修・前掲河上古稀391頁)は十分検討に値すると思います。
弘中 弁護士事務所の場合、押収拒絶権を行使する蓋然性が高いと思うべきだと思いますね。
大出 高いですね。
弘中 そうだとすると、それにもかかわらず、法律事務所に対して捜索押収令状を出す意味がどこにあるのかということを、裁判所はもっと考えるべきだし、必要性について検察に釈明をすべきだと思います。
大出 一方、残念ながら、そうした場合、安易に提出する弁護士もいないわけでもない。
後藤 出す弁護士もいるかもしれません。
弘中 どの弁護士も押収拒絶権は持っているのですから、その点を充分自覚する必要があります。
大出 当然、出てくる話としては、弁護士法とか弁護士職務基本規程のところで対応すべき問題であって、押収拒絶権の問題ではないという議論も、当然すべきことになると思います。
こういうケースがあまり頻繁に起こってくること自体、非常に由々しき事態なので、なかなかケースが蓄積されないとか、これまであったものを全部確認しているわけではないですけれど、「あの弁護士ならやられてもしようがない」みたいなことで済んでしまっているケースが結構あったのだろうと思います。
ですから、検察もそこのところを見極めたうえでいろいろ手を打ってきている可能性も、当然あると思います。
15 電子データの捜索差押えの問題点
弘中 今回の捜索もそうですが、刑事事件での捜索押収のときに、捜査官が真っ先に目をつけるのはパソコンとスマホです。これらは物(ぶつ)だけれど、実は情報そのものです。こういう現在の強制捜査の在り方に対抗できる方策は何かないものでしょうか。FC2事件1)でも、無理やりアメリカに置いてあるサーバーまでつなげて情報を取ってしまうことまでやっています。
ゴーンさんの場合でも、4回目の逮捕のときに、たまたまゴーンさんの奥さんが一緒にいたところ、奥さんのパソコンやスマホをゴーンさんの所有物と偽って全部差押えた。そのうえで、それを分析して次の捜査につなげたのです。本誌でも、このような情報そのものの捜索差押えのやり方や問題点について、取り上げてもらいたいと思います。
大出 少なくとも、今回は情報の一部を抜き取っていくということ自体は、拒否しきったわけですね。
弘中 そうです。ゴーンさんに貸与していたパソコンは渡しませんでしたし、パソコンの中も見せませんでしたから。
大出 検察側との関係では、どういう主張になったのですか。パソコン内のデータですか、ハードディスクですか。
小佐々 はい、その内部です。
大出 ハードディスクの中のデータには、ゴーンさんの関係以外のものも入っているのでしょうか。
弘中 ゴーンさんの関係のものしか入ってません。そのパソコンはもっぱらゴーンさんに使ってもらっていたものですから。
大出 そこに入っている情報自体は、全部ゴーンさんに関係しているものだし、委託を受けたものだということで拒否した。
弘中 そうですね。
注/用語解説 [ + ]
(2020年05月07日公開)