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勾留についての裁判官の考え方は?

──森脇さんは多数勾留請求を却下したかもしれませんが、ほかの裁判官はどうしていたのでしょうか。部内の会議でそういうことが話題になることはなかったのですか。

森脇 名古屋地裁の判事補会で、自分の勾留判断について報告したことがあります。そうすると、私のやり方について否定的な意見を先輩裁判官が言うことがあります。実際、私の決定に対して半分ぐらいが検察官から準抗告されて、そのほとんどについて準抗告が通って敗れました。それは、私の裁判は間違っていると証明されているようなものです。

──自分の決定が上級審に行くと引っくり返るということは予想できましたか。

森脇 広島地裁では、私の決定はほとんど維持されていましたから。最初はわかりませんでした。しかし、名古屋地裁では全然様相が違っていました。

──上級審に行って準抗告で敗れるということは、裁判官の評価、つまり成績に関わるわけですか。

森脇 関わりますね。当時は成績に関わるとは思いませんでしたが、あとでわかったことです。「裁判官の再任のとき、判決が控訴で敗れる率が高いと評価は低い」と先輩裁判官から聞いた記憶があります。準抗告も上訴の一種ですから、それで敗れるということは、裁判を適正にしていないと上からは見られることになります。

──そうしたら、上の判断がすべて正しいということですか。

森脇 残念ですが、裁判所はそれが前提です。準抗告だと地裁の総括裁判長を含む合議体が判断しているわけですし、判決だと高裁や、場合によっては最高裁も判断します。そこで私の決定や判決が敗れると、それは言い逃れようがなく、私の判断が間違っていることになるわけです。

──そんなものですか。

森脇 私はそうは思わなかったけど、裁判官社会の中ではそうです。私は、私の決定や判決が上で敗れても、間違っているのは上級審だと公言していましたが、こんなことを言う裁判官はほとんどいないでしょう。

 奈良地裁のとき、総務課長から言われました。「森脇さん、何のために私がいるかわかりますか」と言うんです。「森脇さんのお目付け役ですよ」と。

──それでは上意下達みたいな話ではないですか。

森脇 上意下達ではないんです。直接の命令があるわけではありませんから。つまり自己規制ですね。裁判所の時流に乗っておかないと、出世できないし、給料差別もあるということです。

──出世と給与を気にすることでは、一般社会と同じではないですか。

森脇 同じです。

──一般の人から見たら、裁判官は独立が保障されていて、裁判官は公正中立な人で、出世や給与のことは考えないで、自分の信念をもってきちんと判断してくれるものと思っています。

森脇 おかしな話ですが、時の権力から「中立」ということは、すなわち「反権力的」ということではないでしょうか? 最高裁はそういう判断を良しと思わないし、裁判官を採用する際、そういう傾向の司法修習生を選ばないと、私は思います。

──それでは、裁判所は絶望的ではないですか。

森脇 一審から無罪をバンバン出していると、出世はなかなか難しいと思います。

(「中」へつづく)


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(2025年04月15日公開)


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