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熾烈を極めた人質司法との戦い

山本 衛(やまもと・まもる)・立花 朋(たちばな・とも)

熾烈を極めた人質司法との戦い

6回目でようやく保釈が認められた大麻単純所持事件。依頼者が起訴されてから実に9か月が経過。身柄拘束がいかに苦痛であるか。早く外に出られるのであれば、嘘をついてでも罪を認めてしまった方がいいのではないか──。接見の度に、弁護人はそう言われた。弁護人は虚偽の自白はすべきでないことを根気強く説明・説得し、身体的・精神的に疲弊する依頼者を勇気づけた。弁護活動から見える「人質司法」の実態。写真はイメージです。

1 はじめに

 本件は大麻の単純所持の事案である。特徴的なのは、被告人が所持していた物が、よくある乾燥植物片ではなく、リキッドタイプの製品((10センチメートルほどの細長い筒状の容器に液体が入っており、ベイプという加熱器具に装着して加熱すると、容器内の液体が気化されるという構造の製品であった。気化された水蒸気を吸引することで、液体に含まれる成分の効能やフレーバーを味わうことができる。))だったという点である。

 被告人が本件事件当時所持していた製品は全部で6本あったが、そのうち1本は被告人自身がインターネットで購入したもので、その他の5本は被告人の友人から譲り受けたものであった。さらに、友人から譲り受けた5本のうち1本は、中身が空の状態だったので鑑定されなかったが、その他の4本は、鑑定の結果、大麻取締法上の「大麻」であると鑑定された(以下、「大麻」であると鑑定された4本の製品を「本件リキッド」という)。

 捜査機関は、本件リキッドがいわゆる大麻リキッド((大麻草から幻覚成分を抽出・濃縮した製品であり、警視庁などによれば、近年摘発が増加しているようである。))であると考え、被告人を大麻取締法違反(大麻の単純所持)の公訴事実で起訴した。本件の公判手続において、弁護人は、①本件リキッドは大麻取締法1条にいう「大麻」ではない、②仮に本件リキッドが「大麻」だとしても、被告人には本件リキッドが「大麻」かもしれないという認識がなかったので故意が認められない旨を主張したところ、上記②の主張が裁判所に受け入れられ、無罪判決が下された。<……

(2025年02月19日公開)


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