連載 取調べ拒否! RAIS弁護実践報告<br>第3回——事例報告② 公職選挙法違反被疑事件

連載 取調べ拒否! RAIS弁護実践報告
第3回——事例報告② 公職選挙法違反被疑事件

依頼者の黙秘権を守る弁護活動

宮村啓太(第二東京弁護士会)


はじめに

 これまでに多くの事件で、依頼者に取調べで黙秘するよう助言してきた。取調べで黙秘している依頼者に対する取調官の言動につき、原告代理人として国家賠償請求訴訟も提起した。

 しかし、あらためて考えてみると、依頼者の黙秘権と人格権を守るには、依頼者を取調官の追及に晒して耐えてもらうのではなく、まずは、依頼者が取調官の追及を受けずに済むことを目指す弁護活動に取り組む必要があるのではないか。それこそが、真の黙秘権保障を実現させるための弁護活動ではないか。そのように考えて、私はRAISの設立に参加して弁護実践に取り組んでいる。

 以下、取調べ拒否を実践した一事例を報告する。

事案の概要

 政治団体「つばさの党」に所属する根本良輔氏は、2024(令6)年4月28日施行の衆議院小選挙区東京第15区選出議員補欠選挙に立候補して、選挙活動を行った。

 根本氏は選挙期間中に行った活動が、公職選挙法に違反するいわゆる選挙妨害行為に該当するとの嫌疑をかけられて逮捕され、3回にわたり勾留されて起訴された。根本氏は、1回目の逮捕当初から一貫して黙秘権を行使しており、私は2回目の勾留期間中に根本氏の弁護人に選任された。

取調べ拒否の方針

 2回目の勾留期間中の初回接見で、根本氏がこれまで黙秘権を行使してきたことを聴取するとともに、今後も黙秘権を行使する方針を確認した。

 黙秘権を行使する以上、根本氏は取調べを強いられるべきではない。そこで、根本氏に取調べ拒否という選択肢があることを伝えて、「取調べを受けないで済むことを望むか」と尋ねた。すると根本氏からは、「受けないで済むのであれば、それを望む」と答えが返ってきた。そこで、根本氏と私は取調べ拒否の方針を決めた。

 「依頼者が取調べ拒否を実行できるだろうか」と不安に感じられる場合もあるかもしれない。しかし、黙秘権行使の方針を決めた以上、依頼者は根本氏と同様に、可能であれば取調べを受けないで済むことを望むはずである。取調官の追及に耐えなければならない事態を望む者など皆無であろう。黙秘権を行使するためにわざわざ検察庁まで移動させられることも苦痛であろう。

 そうである以上、黙秘権を行使する事案では、弁護人はまずは、依頼者が取調べを受けずに済むようにするための活動をすべきことになるはずである。

初回接見後の初動

 弁護人が捜査機関に「被疑者は黙秘権を行使する」と書面で通知しても、捜査機関は「意思確認のために取調べをする必要がある」などと言うことが予想される。そこで、根本氏自身の名義で作成した書面をもって予め黙秘権行使の意思を表明することが必要であると考えた。

 RAISのホームページには、被疑者名義の通知書の雛形を掲載しているが、私は初回接見の際にその書面を持参していなかった。そこで、根本氏の手元にあった便箋に自筆で「黙秘権を行使する」「取調べをしないでほしい」という内容を記載した書面を作ってもらって宅下げを受けて受領した。それを弁護人名義の通知書に添付して捜査機関に送付して、今後一切取調べをすることがないよう通知した。しかし、その直後にも取調べに応じさせられてしまった。そこで、取調べを強いたことに直ちに抗議をするとともに、あらためて、取調べをすることがないよう再度の通知をした。

 なお、弁護人からは、捜査を担当する警視庁捜査二課長および担当検察官のほか、留置管理を所管する警務課長にも宛てて書面を送付した。実際に依頼者が取調べを拒否しようとすれば、留置係官との間で留置場から出場するかどうかをめぐってやり取りすることになる。そこで、留置係官にも黙秘権行使と取調べ拒否の意思を明確に伝えておく必要があることから、留置管理を所管する部署にも書面を送付しておくことが必須である。書面の末尾には次のように記載した。

 「取調べに応じないのは根本氏が黙秘権を行使することの当然の帰結であることから、深川警察署の留置担当警察官において、根本氏に取調室への移動を強要することや、根本氏が取調べに応じないことを不利益処遇の理由とすることが決してないよう、本書面を深川警察署警務課長にも送付します」。

 以後、勾留期間満期に至るまで、根本氏が留置係官から取調べを求められたことは何度もあったが、根本氏は応じない旨を返答し、留置場から一度も出場することなく、検察庁に行かされることもなく終わった。その後の3回目の勾留の後も、あらためて取調べ拒否の意思を表明する通知書を送付し、警察官および検察官の取調べに応じさせられることなく勾留期間満期を迎えた。

 根本氏によれば、刑事調べをしようとされたときは概ね、留置係官から「調べだ」と言われて「行かない」と答えると、「行かない理由は?」と尋ねられたとのことである。それに対して「話すことはないからである」と答えると、留置係官がそのことを刑事に伝えに行き、また戻ってくると「それならばいい」と言われて終わったとのことである。検事調べに呼ばれたときは、当日朝か前日夜に留置係官から「検事が来てほしいと言っている」と言われて「行かない」と答えると、やはり「行かない理由は?」と尋ねられたとのことである。それに対して「話すことはないからである」と答えると、留置係官がそのことを検察庁に電話で伝え、その結果、留置係官から「それならばいい」と言われて終わったとのことである。

 こうして取調べ拒否が貫徹されたことによって、接見を取調べ状況の確認に割く必要がなく、こちらの積極的な弁護活動のために必要な事柄だけに割くことができた。

勾留期間延長請求への対応

 検察官が勾留期間延長請求をすると、被疑者が黙秘権を行使しているのに、裁判官が「被疑者取調べ未了」を理由に勾留期間延長決定をすることがある。つまり、裁判官が黙秘権侵害行為を追認してしまうことがある。

 そこで、2回目および3回目の勾留に係る勾留期間延長請求に先立って、裁判官に勾留期間延長請求却下を求める意見書に捜査機関に送付済みの通知書を添付して提出した。そして意見書に次のように記載した。

 「根本氏はこれまでの取調べにおいて一貫して黙秘権を行使しており、今後も取調べにおいて供述する意思はないから、『被疑者取調べ未了』は勾留期間延長理由になり得ない。また、根本氏の黙秘権行使の意思は揺らぎようのないものであって、今後の捜査の進展いかんによって左右される余地はないから(添付資料参照)、『捜査結果を踏まえた被疑者取調べ未了』も勾留期間延長理由になり得ない。黙秘権行使の意思が明白であるのに取調べを受けさせるために勾留期間を延長するとしたら、供述強要による黙秘権侵害である」。

 被疑者が黙秘権を行使しているのに、取調べのための勾留期間延長を認めるために、「今後の捜査によって判明する事実について被疑者の取調べをする必要がある」とか、「今後の捜査によって判明する事実について被疑者の供述意思を確認する必要がある」などとされることがある。そこで、どのような捜査結果が判明しようとも黙秘の意思は揺らぎようがないことを明確にする通知書を送付しておくべきであるし、そのことを裁判官宛ての意見書や準抗告申立書においても明確にするべきである。

 遺憾ながら裁判官は根本氏の勾留期間を延長する裁判をし、準抗告および特別抗告はいずれも棄却されたが、延長理由として「被疑者取調べ未了」は挙げられなかった。

人質司法の問題

 事案によっては、被疑者を車椅子などで留置場から出場させようとする事例もあるようであり、取調べ拒否が常に同じようにして実現可能であるということはできないが、本件を通じて、取調べ拒否権の行使に向けて弁護人ができる活動はするべきであることを再認識した。

 なお、公職選挙法違反の被疑事実とされた根本氏の選挙活動は客観証拠(動画)に記録されており、今さら事実関係についての証拠を隠滅する余地などない。そうであるにもかかわらず勾留および勾留期間延長が3回にわたって繰り返されたこと自体も重大な問題であり、現在、人質司法の問題を問う国家賠償請求訴訟を提起して係属中であるが、この点をめぐる報告は別の機会に行わせていただきたい。

(『季刊刑事弁護』121号〔2025年〕を転載)

(2025年02月12日公開)


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