リレー連載 刑事弁護の最前線──各地の弁護士会の動き<br>第2回 長崎県弁護士会

リレー連載 刑事弁護の最前線──各地の弁護士会の動き
第2回 長崎県弁護士会

長崎拘置所の突然の廃止・収容業務停止と刑事弁護

黒岩英一 弁護士


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4. 拘置支所の収容業務停止による弊害

 被告人の弁護人との接見交通権は、憲法34条前段に由来する重要な権利である。被告人と弁護人の接見交通が適時かつ十分に保障されることは、被告人の防御権にとって極めて重要である。

 また、被告人は、日常生活、家庭、仕事、釈放された後の将来のこと等の重要な問題について、家族、親族、友人、雇用主、福祉関係者等(以下「家族等」という)と面会して協議を行う必要性が高い上、被告人にとっては、家族等との面会を通じた交流そのものが精神的安定や再犯防止・更生の意欲につながる。

 さらに、家族等が身元を引き受けたり、情状証人となる場合、家族等が、被告人と面会を重ね、犯行に至った根本原因を話し合ったり、監督方法や再犯防止の取組み等を具体的に直接協議したりすることで、より実効的な身元引受や監督につながっていく。

 このように、被告人と家族等が、適時かつ十分な面会をする必要性は高い。

 しかし、拘置支所の廃止・収容業務停止によって、つぎのような弊害が起こっている。

⑴ 拘置支所が廃止・収容停止されることにより、時間的及び経済的な負担が増加し、重要な接見交通権及び家族等との面会の機会が阻害されることが明らかである。

⑵ 長崎拘置支所の収容業務が長崎刑務所に集約されたことによって、長崎地裁本庁管轄地域の被告人が長崎刑務所に収容されたことから、これに伴って収容人数も増加することになった。

 現に、上記収容業務停止後に、長崎刑務所に接見に行った会員ら(主に、長崎本庁管内に事務所を置く会員ら)からは、当初想定されていたとおり、従前と比較して、接見場所までの移動時間が相当長くなったことから、円滑な接見に大きな支障が生じている等の意見が寄せられた。

⑶ 本来、未決拘禁者は無罪推定の原則の適用を受けるものであるから、未決拘禁者は、受刑者と分けて処遇されなければならない。

 しかし、長崎拘置支所の収容業務が停止された現在、未決拘禁者が収容されている場所は、多くの受刑者が在監している長崎刑務所である。長崎刑務所においては、形式的に刑務所機能と拘置所機能とが分離されているとされるものの、同一敷地内で処遇される以上、物理的・人員的に分離には限界がある。

 無罪推定を受けるべき未決拘禁者が、刑事裁判手続を経ることなく受刑者と同一の処遇を受けるおそれがある点で人権侵害の疑いがあり、このような状況は、可能な限り早期に解消されなければならない。

5. 長崎県弁護士会としての取組み

 実は、長崎市から長崎刑務所までは直線距離で25キロメートルないため、国選弁護人が、長崎刑務所に勾留されている被疑者、被告人と接見したとしても、交通費は費用として支払われない。このため、自動車であっても、往復1時間超をかけ、高速道路代を支払ったとしてもすべて弁護人の自腹である。

 それでも自動車を使っている弁護人はまだ負担が軽く、公共交通機関を利用している国選弁護人の負担は極めて大きい。多くの刑務所がそうであるように、長崎刑務所は街中になく、バスは1時間に1本程度しか来ない。接見が終わった時点でタイミング良くバスが来れば良いが、そうでなければタクシーを呼んで駅まで行く必要がある(タクシーを呼ぶにもある程度の時間がかかる)。

 長崎県弁護士会としては、このように負担の大きくなった弁護活動を助成するため、接見のための交通費を拠出する規則を制定し、2024年4月1日から、接見のための実費を支払う仕組みを作り、現在運用しているが、それでも一部の会員には賄いきれない負担が生じてしまっている。

6. 筆者の実体験

 先日は、被告人段階からの国選弁護人となった事案で、被告人が被疑者段階の弁護人から接見拒否を受けていたという話に触れたため、当職から刑務所に対して、被告人に接見の諾否について確認を求め、対応を検討していただいたが、結局事前確認はできない、と断られた。このため、片道数十分をかけて長崎刑務所へ行き、被告人に接見を求めたが案の定拒否された、という負担感の非常に大きい出来事があった。

 接見拒否が見込まれる場合であるから、多少でも融通を利かせてほしいところではあるが、長崎拘置支所であればもう少し負担感は小さかったであろうと感じた次第である。

7. 広く伝えておきたいこと

 今回、執筆を引き受けたのは、「これは他人事ではない」ということを知らせておきたい、という点が大きい。

 長崎県弁護士会の前には、山口県の宇部拘置支所でも同様の問題が起きており、全国の拘置支所は設置から相当期間が経過し、老朽化している施設が多数存在していることや慢性的な人手不足からすると、収容業務の集約は今後も全国で継続していくであろうことは想像に難くない。

 しかしながら、長崎県弁護士会においてもそうであったように、拘置支所は「そこにあるもの」という前提があり、それがある日突然なくなってしまうことは想像の埒外となりやすい。長崎拘置支所の収容停止は、長崎刑務所からの相談ではなく、「通知」として、既に決定したことが連絡された。長崎県弁護士会としては、収容停止を覆すべくいろいろな活動をおこなってきたが、結局は予定通り、収容業務が停止されてしまった。

 これを読まれている読者諸氏の活動地域は様々であろうが、拘置所(拘置支所)が廃止されて収容業務が刑務所に集約されたら、ということを想像してみてほしい。国選弁護業務を日頃から担当しているなら、その影響が小さくない方は多いと思う。

 このため、長崎県弁護士会の出来事を他人事とはせず、他山の石としていただきたい。具体的には、全国各地で、拘置所(拘置支所)の存続について、社会及び行政に広く訴えかけていく活動に協力いただければ幸いである。

 また、これは収容業務の集約化と相対関係にはないが、オンライン接見の実現も強く望まれる。その仕組み作りは一朝一夕では進まないと思われるが、そのような取組みへの協力も、被収容者及び弁護人の活動への支援になると考える。

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(2025年01月28日公開)


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