⑶ O証人の新供述(新証拠の2)
ア O証人の旧供述
O証人は、員面・検面における、旧供述では、被害女児らしき2名を、2月20日の午前8時30分ごろ、和田方前三叉路で目撃したとされていた。この目撃が最終目撃とされ、被害女児らは、午前8時30分ごろ、同三叉路付近で誘拐されたことになっていた。
ところが、不思議なことに、O証人と同時ないし直後に、同三叉路付近にいたはずのIm証人、Kt証人、Kf証人、Ok証人らは、いずれも、女児らを目撃しなかったと証言していた。
イ O証人の旧供述とT証言の関係
確定判決は、三叉路で目撃された車と遺留品発見現場で目撃された車は、特徴がよく似ており、本件犯罪にとって重要な2地点(誘拐現場と遺留品発見現場)に現れていることから、それらは同一の車であるという極めて杜撰な認定をし、そのうえで、それは犯人の車であると認定している。
そして、久間さんがよく似た車を運転していたので、犯人ではないかと疑われるとしていた。
ウ O証人の新供述
O証人は、2023年11月の証人尋問において、「女の子たちを目撃したのは、2022年の2月20日ではなかった」と証言した。
事件当日、「女の子なら見かけたことはあるよね」と同僚に話しかけた言葉が独り歩きして「20日の朝、見かけた」ことにされた。事件発生の日、同僚に、「今朝、見かけた」と話しかけたわけではなかった。「これまでに見かけたことがあるよね」と話しかけただけであった。
O証人は、調書作成に際し、警察官や検察官に対し、事件当日の目撃ではないと何度も訴えたが、受け容れてもらえなかった。そのような経過で「2月20日の朝、女児らを見かけた」という、自分の記憶と全く異なる内容の調書が作られたのである。
エ O証人の新供述が及ぼす影響
O証人が目撃したのが、犯行当日の2月20日ではなかったことになると、以下の点が浮かび上がる。
① 三叉路付近が誘拐現場であるとは言えなくなる。
② また、三叉路付近で、O証人の通過直後、久間車に似た車を目撃したとする、Im証人、Kf証人の証言は全く価値がなくなる。
③ また本件犯罪にとって重要な2地点(誘拐現場と遺留品発見現場)に現れた久間車に特徴の似た車は犯人の車であるとする確定判決の認定は、その基礎を失って成り立たなくなる。
④ 他方「遺留品遺棄現場付近で20日の午前11時頃、久間車と似た車をみた」とする、T証言と、本件との結びつきが極めて弱くなる。T証人が目撃した車は、偶然そこに停まっていた車であった可能性が高まるからである。
⑤ その結果、T証言の証拠価値はその大半が失われてしまう。
⑷ 第二次再審の請求棄却決定
ア 福岡地裁(LEX/DB25620263)は、2024年6月5日、第二次再審請求を棄却する決定を出した。
イ その理由として、木村証言に対しては、①目撃した女児と被害女児が似ているとするが、具体的根拠を示すことが出来てない、②目撃時刻について変遷がある、③木村証人の目撃は、死亡推定時刻鑑定と矛盾する、などを挙げている。
ウ また、O証人の新供述に対しては、①捜査機関にとって、事件発生直後に、O証人の記憶に反する調書を作成する必要もなく、そのような調書を作ることは、危険かつ有害である、②警察官がそのような捏造を行うことは考え難い、③弁護人は、捜査初期から久間さんを犯人とする見込み捜査が行われたと主張しているが、本件各調書を見ても、そのようなことを疑わせる記載はない、などの理由を挙げて、新供述は信用できないとした。その結果、棄却決定は、明白性認定の二段階説の総合評価には進まなかった。
7 第二次再審即時抗告審の現況
⑴ 弁護人は、2024年6月11日、即時抗告を行った。
⑵ また、同年9月30日、①即時抗告理由補充書、②証拠開示命令申立書、③事実取調請求書、④三者協議開催申立書を提出した。
⑶ ①即時抗告理由補充書
O証人の供述は、Ⓐ目撃、Ⓑ初期供述、Ⓒ旧供述(員面、検面)、Ⓓ新供述(証人尋問における証言)の順で構成されている。
棄却決定は、O証人の旧供述と新供述を対比して、新供述は長い歳月が経過しているから、信用できないと論じている。しかし、新供述は初期供述と異なる内容の、旧供述が作られたと主張しているのであるから、新供述の信用性を論じたいのであれば、O証人の初期供述と旧供述を対比して論ずべきである。なぜなら、O証人の初期供述と旧供述が一致していれば、新供述は信用できないことが直ちに分かるし、一致してなければ、新供述を信用できないとした棄却決定の根拠が直ちに崩れるからである。
⑷ ②証拠開示命令申立書
ア 原審では、書証目録について開示勧告がなされていた。
原審の三者協議において、O証人の初期供述についての証拠開示が争われる中で、警察から検察に送致した一件記録に書証目録(ないし一覧表)が添付されていることが明らかになった。そのような流れの中で、上記勧告が出たのである。検察官はこの勧告に応じなかったが、原審の裁判官は、その点を放置したまま、棄却決定を出していた。
イ 本件では、警察は、1992年3月2日の員面調書作成の9日前となる、2月22日にO証人の事実取調べを行っており、その捜査報告書は必ず存在している。勧告にしたがって、検察官が書証目録を提出してくれば、O証人らの初期供述を記録した、捜査報告書の存在が明らかとなる。
そして、その捜査報告書が開示されれば、O証人の初期供述が、旧供述と一致しているか、あるいは新供述と一致しているかが、直ちに判明する。
⑸ ③事実調べ請求書
弁護人は、事実調べ請求書によって、弁護人所有の録音媒体とその反訳書の取調べを求めた。
弁護人は、O証人と、2018年に3回、2023年に4回の打合わせを行った。この7回の打合わせの最初から最後まで、延べ10時間以上、ICレコーダーで録音していた。今回、そのすべての反訳書を作成した。
この録音を聴くか、あるいは反訳書を読みさえすれば、棄却決定が、O証言を信用できないとした理由(①証人の記憶に反する調書を作成することは、必要なく、危険かつ有害である。②警察官が捏造するわけがない。③捜査初期から久間さんを犯人とする見込み捜査が行われていた痕跡はない)の全てが、正しくないことが分かる。その録音では、㋐警察の取調べがどのように行われたか、㋑その中でO証人の供述がどのように捻じ曲げられていったか、㋒O証人に対し署名指印がどのようにして強要されたか、㋓警察官がO証人に対し事件直後の2月22日の段階から久間さんの車に似た車を目撃しなかったかをしつこく尋ねたことなどが、生々しく語られているからである。
⑹ 第一回三者協議(2024年10月28日)
ア 上記三者協議では、裁判所から検察官に対し、①年内に、木村証人、O証人の初期供述に関する記録があるか否かを調査し、存在していれば提出し、見当たらなかったら、どのような調査をしたかを書面で報告するよう、求められた。
また②警察から検察に送致された一件記録の書類目録ないし一覧表について、年内に提出するよう、再び、勧告がなされた。
イ 両証人の初期供述が明らかになれば、本件は急展開してゆくものと予想される。
(2024年12月06日公開)