連載 再審法改正へGO!

連載 再審法改正へGO! 迅速・確実な冤罪救済のために
第15回

知られざる再審請求審の手続の実態 その2

鴨志田祐美(日弁連再審法改正実現本部 本部長代行)


4 再審請求人は蚊帳の外!?

 前回のおさらいになりますが、現行法上の再審請求手続には、「期日」という概念はありません。ただ、裁判所によっては事実上の進行協議期日を設けたり、非公開の法廷で鑑定人や当時の目撃者などへの証人尋問を「事実の取調」(現行刑訴法445条)として行ったりしています。

 では、このとき、有罪判決が確定し、再審請求を行っている者はこれらの手続に立ち会うことができるでしょうか。再審請求人の進行協議期日への出頭や事実の取調べへの立会いについては明文がなく、裁判所の裁量に委ねられています。特に、有罪の言渡しを受けた本人が再審請求を行っている場合に、その本人が刑務所に収監されていたり、死刑判決を受けて拘置されている場合には、本人の裁判所への出頭や立会いはまず認められないでしょう。なお、刑訴規則286条で「再審の請求について決定をする場合には、請求をした者及びその相手方の意見を聴かなければならない」と定められていますが、これは再審請求人本人が出頭して直接意見を述べることを要求するものではなく、意見書の提出や弁護人による意見の陳述でも足りるとされています。

 しかし、無実を訴える再審請求人(有罪の言渡しを受けた者)を、冤罪を晴らす最後のチャンスである再審請求手続に関与させないというのは、著しく手続的適正を欠くのではないでしょうか。

 そこで、日弁連意見書では、「再審の請求をした者、有罪の言渡を受けた者及び弁護人は、再審請求手続期日に出席することができる」と再審請求人(有罪の言渡しを受けた者)の期日への出席を保障した上で(445条の2第2項)、裁判所は、最初に行われる再審請求手続期日において、再審の請求をした者及び弁護人に対し、再審の請求の理由について陳述する機会を与えなければならないとし(445条の6第1項)、かつその陳述は公開の法廷で行うことを定めました(同第2項)。

 事実の取調べとして証人尋問が行われる場合には、再審請求人(有罪の言渡しを受けた者)は、証人に直接尋問する権利が保障され(445条の8第1項)、さらに事実の取調べの結果に基づいて、公開の法廷で意見陳述を行うことができることも定めました(445条の14第1項、第3項)。

 しかし何と言っても、再審請求人(有罪の言渡しを受けた者)の手続保障を実効化するためには、弁護人の関与が不可欠です。現行刑訴法は、検察官以外の者が再審請求を行う場合に弁護人を選任することを認めていますが(現行刑訴法440条1項)、再審手続における弁護活動は、国選弁護制度の対象とはなっていません。このため、日弁連意見書では再審段階における国選弁護制度についても詳細な規定を入れました(440条1項~8項)。

 この、再審における国選弁護制度については、回を改めて解説します。

5 「決定」はどのように知らされる?

 再審請求は「決定」手続のため、判決のように公開の法廷で「言渡し」が行われるわけではありません。よく、「再審事件の決定日が●月●日と決まった」と報じられますが、それは、地裁や高裁の場合には、裁判所において決定書の謄本が交付される日のことであり、「交付送達」といって、再審請求人や弁護人が裁判所の窓口に決定書を受け取りに行くのが通常です(マスコミが注目する著名事件では、窓口での混乱を避けるため、裁判所の会議室やラウンド法廷で決定書が交付された例もあります)。

 再審事件の弁護人は、再審請求が棄却された場合の抗告(次項で詳述します)に備えたり、また、決定当日のマスコミ対応などの準備なども必要なことから、裁判所に対し、決定日を少なくとも2週間ないし1か月前に告知してほしいと申し入れることが多いのですが、裁判所がその申し入れに従うかは裁量に委ねられています1)。それどころか、進行協議期日も開かれないまま、ある日突然決定書が再審請求人と主任弁護人に郵送で送達されるケースも未だ少なくありません(なお、抗告申立てが想定されない最高裁の決定については、交付送達はされず、すべて郵送での送達であり、決定日の事前告知もされません)。

 日弁連意見書では、決定の告知をめぐっても生じるこのような格差を是正するため、まず、裁判所が再審請求の審理を終えるときは、原則として、相当の猶予期間を置いて審理終結日を定めることとし(445条の15)、決定日の1か月前までに、関係者に対して決定日を告知しなければならないこととしました(445条の16)。

6 抗告のリアル

 再審開始決定に対する検察官抗告を禁止すべきことは、すでに本コラムの第3回第4回で解説しましたので、ここでは再審請求を棄却する決定について、再審請求人(有罪の言渡しを受けた者)側が行う抗告に関する現状と改正案について説明します。

 現行法上、再審請求審において地裁・簡裁のした決定に対しては即時抗告(現行刑訴法450条)、高裁のした決定に対しては抗告に代わる異議申立てができますが(同428条2項)、その申立て期間は3日と極めて短いものとなっています(同422条、同428条3項)。

 また、即時抗告審の決定に対しては、最高裁に対し、憲法違反・判例違反を理由とする特別抗告を申し立てることができますが、その申立て期間は5日です(同435条)。

 再審弁護人は、前項で述べたように、再審請求に対する決定日を一定の期間を置いて事前に告知するよう裁判所に申し入れることが多いのですが、その際に併せて、仮に棄却決定だった場合に即時抗告や異議申立てを行わなければならない請求審の決定については「水曜日」に、特別抗告を申し立てることになる即時抗告審の決定については「月曜日」に、決定を出してほしい、という点も要望します。抗告期間が3日の場合、決定日が水曜日であれば、翌木曜日から起算して3日目が土曜日になるため、土日を挟んだ月曜日が抗告期限となって、実質5日間使えるようになるからです。抗告期間が5日の場合には、決定日が月曜日であれば、同じ理屈で実質7日間使えるようになります。

 このような涙ぐましい努力をして少しでも抗告期間を伸ばそうとするのには理由があります。控訴や上告の場合は、14日間の上訴期間内に申立書を提出するだけでよく、実質的な控訴・上告理由は、申立書提出後、裁判所から1か月ほどの期限を定められることの多い控訴趣意書に記載すればよいのですが、抗告や異議申立ての場合には、上述の極めてタイトな期限内に、実質的な抗告理由もしっかり記載した申立書を提出しなければなりません。筆者も何度も経験していますが、抗告申立ては、あまりにも過度の負担を再審請求側に負わせるものと言わざるを得ません。

 このような理不尽な現状を踏まえ、日弁連意見書では、再審請求棄却決定に対する不服申立て(即時抗告、異議申立て、特別抗告のすべて)も、通常審における控訴・上告の場合と同様、不服申立期間を14日間と定めました(450条2項、6項)。また、不服申立ての理由を記載した抗告趣意書の提出期間は、原則として不服申立てを行った後30日以内とし(450条3項、6項)、この期間は申立てまたは職権により延長することができることとしました(同条3項、6項)。

7 おわりにかえて——台湾の2019年改正では

 前回と今回で解説した再審請求段階における手続規定の著しい不備について、日本に倣い、ほぼ同じ条文の再審制度をもつ台湾では、2019年に画期的な改正が実現しています。

 改正が実現した項目は、①再審請求人に対する裁判所への出頭通知と原則開廷(台湾刑訴法429条の2)、②再審請求人の証拠調べ請求権の保障(同429条の3)、③抗告期間の延長(同434条2項。それまでの5日から10日へ)などです2)

 わが国においても、証拠開示、検察官抗告の禁止と並んで、手続規定の整備を再審法改正の重要な柱とすべきです。

(次回につづく)


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注/用語解説   [ + ]

(2024年09月06日公開)


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