連載 再審法改正へGO!

連載 再審法改正へGO! 迅速・確実な冤罪救済のために
第14回

知られざる再審請求審の手続の実態 その1

鴨志田祐美(日弁連再審法改正実現本部 本部長代行)


1 はじめに

 これまで、日弁連意見書が提案する再審法改正案のうち、「再審請求手続における証拠開示の制度化」と「再審開始決定に対する検察官による不服申立ての禁止」に関する規定を中心に解説してきました。日弁連は、この二つに「再審請求手続における手続規定の整備」を加えた3項目を法改正の柱に据えています。

 今回と次回は3つ目の柱である、再審請求の審理手続そのものに関する改正案に光を当てたいと思いますが、そもそも、再審請求における審理がどのように行われているか、その実態はほとんど知られていないのではないでしょうか。そこで、現行制度における再審請求審の実情を紹介しつつ、対応する改正条項案について解説していきます。

2 「期日」がない!?

 再審請求は「決定」手続のため、法律上、口頭弁論によることを要しないとされています(現行刑訴法43条2項)。つまり審理の公開が義務付けられていません。このため、審理を進めるにあたり「期日を開く」という概念がないのです。

 もっとも、実際の再審請求事件では、例えば新証拠として鑑定書が提出されている場合に、その鑑定人に対して証人尋問を行うか否か、また、再審請求人の求める証拠開示を認めるか否か、請求人の主張に対する検察官の意見書の提出期限をいつにするか、といった具体的な審理の進め方を決めるため、裁判所、再審請求人(弁護人)、検察官の三者の間で事実上の進行協議期日を設けるケースが多くみられます。一方で、弁護団が裁判所に対し、繰り返し進行協議期日の開催を求めても、裁判所がこれにまったく応じないまま、ある日突然再審請求棄却決定が送達されるというケースも、未だ少なくありません。

 期日が開かれない事件では、当然のことながら充実した審理は望むべくもありません。再審が、冤罪被害者を救済するための最後のチャンスであることに鑑みれば、このような状況は非常に問題です。また、裁判官は「期日」の存在によって事件ごとのスケジュール管理を行っていることが常であり、期日が開かれないということは、それだけで事件の進行が放置され、判断までに長期間を要するというリスクも指摘されています。

 そこで、日弁連意見書では、再審請求の審理は、原則として再審請求手続期日を開いて行うこととしました(445条1項)。 再審請求手続期日を開いて再審請求の審理を行う場合、初回の期日は、原則として再審請求がされたときから2か月以内の日を指定し(同条2項)、関係者に通知することとしました(445条の2 第1項)。審請求手続期日に関しては、期日調書の作成を義務付ける規定も新設しています(445条の3)。

3 証人尋問は施錠された法廷で行われる!?

 現行法上、再審請求審の審理の在り方について定めた条文は445条のみで、そこには「再審の請求を受けた裁判所は、必要があるときは、合議体の構成員に再審の請求の理由について、事実の取調をさせ(中略)ることができる」と規定されています。個々の再審請求事件において実際に行われている証拠開示勧告や、鑑定人や当時の目撃者などに対して行われる証人尋問、裁判所が現場に赴いて行う検証などは、すべてこの「事実の取調」の一環として、裁判所の裁量で行われているものです。

 再審請求事件で「事実の取調」として証人尋問が採用されると、多くの場合、その尋問は通常の刑事事件の審理が行われるのと同じ法廷で行われますが、通常の事件とは大きく異なる点があります。

 それは、尋問が「非公開」で行われるということです。一般の市民やマスコミ関係者は傍聴席に入ることができません。裁判所は、尋問を受ける証人と、立ち会う弁護人の人数を厳重にチェックし、全員が揃った段階で法廷のドアに施錠します。法廷に途中で出入りすることも制限され、法廷のすべてのドアの前に警備の人間が立っていることもあります(余談ですが、法壇に座っている裁判官は法服を着用していません)。

 実は、再審請求の審理について、法は上述のとおり「口頭弁論を要しない」と言っているだけで、「非公開で行わなければならない」と言っているわけではないので、仮に尋問を公開の法廷で行ったとしても手続上違法となるわけではありません。かつて、「日産サニー事件」という、福島地裁いわき支部で再審開始決定がされた事件1)(後に上級審で棄却)では、公開の法廷で証人尋問が実施されました2)。しかし、その後はほぼすべての事件において、再審請求手続の「事実の取調」として行われる証人尋問は非公開となっています。このように非公開の法廷で行われる証人尋問の内容はなかなか一般の市民には伝わりにくく、このことも再審の実情が理解されにくい一因となっています。

 そこで、日弁連意見書では、まず、裁判所による事実の取調べについて、再審請求人や弁護人に対しても、事実の取調べを請求する権利を保障することとした上で、証人尋問、検証及び鑑定は、原則として公開の法廷で行わなければならないこと(刑事訴訟法445条の8第3項)としました。

(次回につづく)


【関連記事:連載「再審法改正へGO!」】
第13回 法改正に向けて動きだした国会議員たち
第12回 袴田事件再審公判と法改正の必要性
第11回 再審における「前審関与」問題

注/用語解説   [ + ]

(2024年08月14日公開)


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