1 はじめに
日本の刑事司法の「岩盤」である人質司法を打破することは、刑事弁護にたずさわる弁護士の多年にわたる悲願である。冤罪が明らかになる度に、冤罪の温床である人質司法が非難されてきた。
高野隆弁護士が、このような令状実務に猛省を迫り、「実務の不当性を鋭く抉り出し抜本的な解決策を突き付けた」((木谷明「書評・高野隆『人質司法』」判例時報2517号(2022年)138頁。))コンパクトな名著『人質司法』(角川新書)をあらわしたのは、2021年のことである。
ところが、2023年10月に発行された季刊刑事弁護116号所載の趙誠峰弁護士のレポート((趙誠峰「大川原化工機事件・人質司法の記録」季刊刑事弁護116号(2023年)91頁。))によって、人質司法のもたらす悲劇の象徴的事件ともいうべき大川原化工機事件が、すでに2020年に起っていたことが明らかになった。
趙弁護士は、公訴の取消しに終わるこの事件の身柄継続の経緯を、被告人の一人相嶋靜夫氏のがんによる死亡を含めて詳述し、検察官の意見を「唯々諾々と受け入れ」た裁判官の氏名を明らかにした上、「ほかならぬ裁判官こそ、この事件における身柄拘束の判断を振り返り、反省し、二度と同じ過ちを犯さないようにするべきである」という。それは、まことに、その通りである。しかし、これは、ただ裁判官が「反省」するだけで済ませてよいような問題なのであろうか。
大川原化工機事件の元被告人らが起こした国賠事件において、東京地裁は、2023年12月27日、……
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(2024年08月08日公開)