緊急座談会

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刑事手続IT化はどこに向かうのか(下)

久保有希子・田岡直博・山本了宣・水谷恭史(司会)


2 電磁的記録提供命令制度を統制するシステム不備への危惧

水谷 ご指摘いただいたような懸念は、私も自分自身が実際に担当した事件でも実感しました。捜査機関はとにかく包括的にごっそりデータを取っていこうとするもので、さらにとんでもない武器が与えられることになりかねないわけです。通信傍受の導入の際は、実質的な被処分者に知らせない状態で傍受する一方、事後的ではあるが国会に実施状況を報告するといった、ある程度は捜査機関を統制する仕組みが設けられました。今回の電磁的記録提供命令制度では、久保さんがおっしゃったように、クラウド事業者とかプロバイダに対して命令が出て、実質的なデータの帰属主体には何も知らされない状態でデータ提供が行われることがありうるわけです。それを事後的に検証したり、統制したりするシステムについて、法制審で議論しているのでしょうか。

久保 私から発言してはいますが、少なくともここまでの案の中には出てはきていません。現行法の異議申立てと同様の制度が設けられるという限りでは意見は反映されたのですが、それを超えてそのデータ主体に関する規制は不要だというのが当局の回答でした。
 今ご指摘のあった、通信傍受法のような形で事後的な統制をかけるべきではないかということも発言しましたが、通信傍受法は現在進行中の通信を対象とするものであるのに対して今回はそういうものではないから通信傍受法とは違うんだという反論が当局から出ました。
 これについては、私から、今回のほうが過去の膨大なデータを対象としてお……

(2024年05月17日公開)


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