(上)と(中)で、身体拘束された被疑者・被告人がどのような心理状態に陥るかを見てきました。(下)では、前回までの内容を踏まえて、人質司法を成り立たせている要素を考えます。また、人質司法の各構成要素について、それぞれの相互関係などの特徴についても分析します。改めて、人質司法とはいったい何なのでしょうか。

1 はじめに

 人質司法は、明確に定義することが難しい。

 まず、人質司法の概念を定義した規定や裁判例がない((「人質司法」という言葉について、誰がいつ使い始めたかは不明です。おそらく弁護士かと思われます。
 1989年9月に島根市で開催された日本弁護士連合会第32回人権擁護大会の第一分科会の報告書『刑事裁判の現状と問題点──刑訴法40年・弁護活動の充実をめざして』の保釈問題を検討する項目の中に「人質司法」という言葉があります(同報告書54頁)。
 また、季刊刑事弁護創刊号(1995年1月)では、木上勝征弁護士が、「日本の刑事裁判と刑事弁護の課題」の中で言及されています(15頁)。
人質司法については、その後も、勾留・保釈や冤罪原因(特に、虚偽自白)などを論じる際に触れられてきました。最近では、木谷明元裁判官の「人質司法について」(法学セミナー713号〔2014年〕34頁)があります。
 さらに、人質司法の実態は、その一端が冤罪被害者の手記などにも表現されています。しかし、その実態について、特に被疑者の心理面から本格的に検討したものは少ないのが実情でした。))。加えて、人質司法の体験者が自らの体……

(2024年03月27日公開)


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