今回の法制審議会の議論では、刑事訴訟法に新たな強制処分を創設する提案であるにもかかわらず、外国法制についての情報提供がなされていません(2023年10月23日段階の法務省ホームページ情報に基づく)。これまで法制審では、通信傍受法の改正や協議・合意制度等の新たな処分や制度の追加・導入に先立って海外での導入例の紹介がなされていましたが、今回の提供命令の創設にあたってはそうした比較法的情報提供が行われていないのは不思議なことです。
そこで、以下、英米法圏における「電磁的記録提供命令」と同種の強制処分を簡単に紹介して、示唆を求めたいと思います((欧州では国外に所在するデータを保管管理する事業者に対してデータの提供を命じることのできる強制処分が最近提案されているが、本稿では比較検討の対象から除外している。詳しくは、拙稿「越境するデータ、越境する捜索──域外データ取得をめぐる執行奉仕に関する欧米の立法動向」Law & Technology82号(2019年)45頁、丸橋透「国外プロバイダーに対するデータの保全命令・提出命令──EU『e-evidence』施策」自由と正義2020年1月号等を参照。また、域外データへのアクセスや捜査機関によるデータ移転全般に関しては、指宿信・板倉陽一郎編『越境するデータと法──サイバー捜査と個人情報保護を考える』(法律文化社、2023年)が詳しい。))。
⑴ アメリカ法
アメリカ法でデータの提供命令に該当するのは、汎用的なsubpoena(サピーナ)と通信記録を対象とするSection 2703 Orderの二つがあります。
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(2023年10月31日公開)