連載 再審法改正へGO!

連載 再審法改正へGO! 迅速・確実な冤罪救済のために
第4回

再審請求手続における検察官の役割とは(下)

鴨志田祐美(日弁連再審法改正実現本部 本部長代行)


4 再審請求における検察官の在り方を定める条項案

 前回は、日本国憲法のもとで、無辜(無実の人)の救済に特化した現行刑訴法の再審請求手続において、検察官はどのような役割を果たすべきかについて解説しました。考え方の基本となるのは次の2点です。

① 職権主義を採る再審請求審は、請求人の行った再審請求を裁判所が職権で判断するという二者構造のため、再審請求手続において検察官は有罪の立証責任を負う「当事者」ではない。
② 憲法の「二重の危険禁止」により不利益再審が廃止された結果、「無辜の救済」に特化した現行刑訴法の再審手続における検察官の役割は、無辜の救済という法の目的実現に向けた裁判所の適切な職権行使に、「公益の代表者」として協力することである。

 これらの点を踏まえ、2023年2月に日弁連が公表した「刑事再審に関する刑事訴訟法等改正意見書」(以下、「日弁連意見書」と呼びます。同年7月に改訂)では、再審請求手続における検察官の地位を確認し、再審請求手続への関与の在り方を定める条項案を提示しています。具体的な条項をみてみましょう。

 日弁連意見書は、まず前提として、現行法に再審請求段階での審理の進め方を定めた条文がなく、このことが事件を審理する裁判官ごとの「再審格差」を生んでいる点を改善すべく、再審請求審における手続規定を整備しました。例えば、再審の請求がされたときは、裁判長は速やかに再審請求手続期日を定めなければならないとし、その期日は再審請求の日から2カ月以内に指定しなければならないと定めました(改正条項案445条)。

 そして、再審請求人の手続保障の観点から、再審の請求をした者、有罪の言渡を受けた者及び弁護人は、再審請求手続期日に出席することができる旨を明文化しました(同445条の2第2項)。一方で、検察官の期日への出席は当然には認められず、裁判所は、必要があると認めるときは、再審請求手続期日に検察官の出席を求めることができる旨規定し、検察官の期日への出席を裁判官の裁量に委ねることとしました(同第3項)。

 また、証人尋問や検証などの「事実の取調べ」に関しては、再審請求審が職権主義であることを前提としつつ、再審請求人の手続保障の観点から、「 再審の請求を受けた裁判所は、必要があると認めるときは、再審の請求をした者若しくは弁護人の請求により又は職権で事実の取調をすることができる」と規定しました(同445条の7第1項)。ここでも、検察官による事実取調べ請求は認められていません。事実の取調べにあたっては、再審の請求をした者及び弁護人は、事実の取調に立ち会い、証人の尋問の場合には、その証人を尋問することができますが(同445条の8第1項)、検察官については、「裁判所は、あらたな証拠の証明力の判断に資するため必要な限度で、検察官を、事実の取調に立ち会わせ、証人の尋問の場合には、その証人の尋問をさせることができる」とするにとどめました(同第2項)。

 再審請求手続期日への出席や、事実の取調べへの立会い、証人尋問権について、再審請求人や弁護人と、検察官との間にこのような差を設けることについて1)、不公平であると感じる人もいるかもしれません。しかし、冒頭の①で述べたとおり、再審請求手続において検察官は「当事者」ではありませんから、原則として手続関与が認められないのは、いわば当然なのです。検察官の関与は、冒頭の②の観点である「無辜の救済のために裁判所が適切に職権を行使するにあたり、『公益の代表者』として協力する」限度で認められるべきである、というスタンスを明確にすることで、本来「やり直しの裁判をするかどうかを決める」だけの前さばきの場である再審請求審が紛糾し、いたずらに長期化することを防止することが可能となるのです。日弁連意見書では、このような条文を置いた趣旨について、次のように述べています。

 「現行の再審制度が専らえん罪被害者の救済のためにのみ存在していることは、憲法上の要請に基づくものである。そもそも、現行の再審請求手続は職権主義構造がとられており、検察官は、公益の代表者として、裁判所が行う審理に協力すべき立場に過ぎない。したがって、再審請求手続における検察官の関与は、職権主義のもとで手続の主導権を有する裁判所が、適正な手続進行を図るために必要と認める限度においてのみ認められるべきものに過ぎず、検察官が通常審におけるのと同様に当事者的立場で積極的な主張立証活動を行うことは許されない。しかし、現実の再審事件の審理を見ると、あたかも検察官が再審請求人に対峙する対立当事者であるかの如く振る舞っている実情があることから、再審請求手続における検察官の役割を確認する規定を設けることとした。」(同意見書7頁)

 さらに、冒頭で述べた二つの観点から、裁判所が職権を適切に行使した結果として再審公判に進む必要性を認めた以上、もともと抗告権の主体たる「当事者」ではない検察官に抗告権が認められるはずもなく、抗告ができるとする根拠に「公益の代表者性」を挙げることもまったくの筋違いであることがお分かりいただけると思います。新屋達之教授は、再審開始決定に対する検察官の抗告は、端的に違憲であるとしています2)

 そこで改正条項案では、即時抗告を行える場合を定めた現行刑訴法450条から「第448条第1項の決定」すなわち再審開始決定を削除し、さらに特別抗告の余地も残さないために、現行刑訴法433条の「この法律により不服を申し立てることができない決定又は命令に対しては、第405条に規定する事由があることを理由とする場合に限り、最高裁判所に特に抗告をすることができる。」とする規定を、再審の決定については適用しない旨明記しました(改正条項案450条の3)。

5 袴田事件の再審公判における有罪立証が批判される理由

 再審請求審の審理が、再審公判に進むか否かを判断する「前さばき」として迅速に判断され、再審開始決定に対する検察官抗告もなくなれば、再審公判に至るまでの審理の大幅なスピードアップが実現するでしょう。そうなれば、公開の法廷で、直接主義などの手続保障のある公判に再び「当事者」として関与する検察官が、堂々と有罪主張をしても、何ら批判されることはないはずです。

 袴田事件の再審公判で有罪主張の方針を表明した検察官が批判されるのは、それが40年以上も続いた再審請求手続の中で、検察官が「当事者然として」有罪主張を繰り返し、再審開始決定にも抗告を行って抵抗した後での、さらなる有罪主張の蒸し返しだからなのです。

 次回は、再審請求が機能するために不可欠である、証拠開示に関する改正条項案について解説します。


【関連記事:連載 再審法改正へGO!】
第3回 再審請求手続における検察官の役割とは(上)

注/用語解説   [ + ]

(2023年09月05日公開)


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