連載 刑事司法における IT 利用の光と陰

刑事司法におけるIT利用の光と陰
第14回

記録から識別へ——顔認識技術の利用

指宿信 成城大学教授


1 はじめに

 2021年夏、JR東日本が新宿駅構内に顔認識技術を搭載した監視カメラを設置し、出所者情報などと照合していたことが報じられたのをご記憶でしょうか((「駅の防犯対策、顔認識カメラで登録者を検知…出所者の一部も対象に 」読売新聞オンライン2021年9月21日。))。報道によれば、カメラの検知対象とされていたのは「〈1〉過去にJR東の駅構内などで重大犯罪を犯し、服役した人(出所者や仮出所者)〈2〉指名手配中の容疑者〈3〉うろつくなどの不審な行動をとった人」だということです。これまでの監視カメラの利用はいわゆる「記録型」で、事件が発生した後に、記録されたデータを解析して犯人の顔情報を取得の上、人物同定するとか、逃亡した犯人の足取りを追跡するといった利用でした。それがAIによる顔認識技術(facial recognition technology。以下、FRTと略)を搭載することで「識別型」利用に転じたのです。

 なお、このFRTに対応する用語としてしばしば「顔認証」が用いられます。本稿で引用している諸文献でも顔認証という語を見かけます。しかしながら、無差別な顔情報のチェックは「認識」という表現が相応しいので本稿ではこちらに統一しています。“認証”とは“identification”であり、特定個人の登録データとの同一性を識別しアクセスを許容する機能を意味します。事前に登録された大量の顔データと照合する場合は“認識(recognition)”という用語を使うべきだからです。

 さて、今回のJR東日本の事例については筆者も別稿で詳しく検討していますが((その後JR東日本は出所者の顔情報の識別は停止すると発表した。指宿……

(2023年08月01日公開)


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