連載 和歌山カレー事件

和歌山カレー事件
刑事裁判のヒ素鑑定の誤りを見抜いた民事裁判
第4回

林真須美頭髪に3価無機ヒ素を検出したとされる山内鑑定は「どの程度確立しているかについて不明確な点も残る」(上)

河合潤 京都大学名誉教授

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1 前回までの連載のまとめ

 連載第2回で触れた通り,聖マリアンナ医科大学山内博助教授(鑑定当時)は,㋑シンクロトロン放射光を用いて林真須美頭髪の48ミリの位置にヒ素の局在を検出し(1998.12.16),㋺原子吸光分析によって林頭髪に3価無機ヒ素を検出した(1998.12.11).

 ㋑「48ミリ」が鑑定として意味がないことを,確定第1審小川判決(2002)は認識しながら,それを判決に書かない,という隠蔽があったことを,民事裁判田口判決(2022)に沿って明らかにした(連載第2,3回).その隠蔽の結果,確定第2審白井判決(2005)と第1次再審請求審浅見決定(2017)は,「48ミリ」の鑑定に信用性があると誤認して,それぞれ,即時抗告を棄却したり,再審請求を棄却したことを,判決や決定を引用しながら示した.

 確定第2審大阪高裁白井判決(2005)が「48ミリ」は正しいと判示したことを,最高裁那須判決(2009)は訂正することなく,「②被告人《林真須美》の頭髪からも高濃度の砒素が検出されており,その付着状況から被告人が亜砒酸等を取り扱っていたと推認できること」を死刑判決3理由の一つとしたから,最高裁死刑判決も,間違った前提に基づく判決だったという非難を免れることはできない.

 連載第2回で簡単に触れたとおり,田口判決(2022)は,㋺原子吸光鑑定が「どの程度確立しているかについて不明確な点も残る」とも判示した.山内教授の鑑定手法が科学的に確立した手法であるとする確定第1審の判示に対して,田口判決(2022)は疑問を呈したことになる.㋺原子吸光鑑定が正しくなかったのは,手法が確立していなかったからであって……

(2023年07月26日公開)


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