福田検事は第1次再審請求審の「鑑定請求に対する意見書」において,「48ミリ」を有効だとしていたことを前節で述べた.それなら,確定第1審の検察の論告がどうだったか気になる.検察の論告に従って,小川判決が「48ミリ」に関する記述を判決に書かなかった可能性もあるからだ.本節では,和歌山地方検察庁検察官小寺哲夫事務取扱検事と北英知検事の「論告要旨」(2002.6.5)を見てみる.この論告要旨が提出されたのは,小川判決(2002.12.11)の半年前に当たる.以下の文章がある.
「中井教授は,この被告人の右前頭部から採取した毛髪につき,大型放射光施設フォトンファクトリの放射光X線を使用して,2回にわたり,それぞれ別の毛髪に対する蛍光X線分析を行い,そのいずれにおいても,毛根から約5センチメートルの部位に数ミリメートル幅で高濃度の砒素が局在しているとの分析結果を出している(甲63山内鑑定書,甲1232中井鑑定書,中井証言34回156~161,174~176).もっとも,被告人の毛髪は,医師により,はさみを使用して頭皮から約1センチメートルの位置で採取されたものであるから,毛根部を基準にすると,高濃度の砒素が局在している部位は,毛根部から約6センチメートルの部位となる(元畑証言10回6).」(p.60)
検察の論告要旨では山内鑑定書甲63を引用した上で「2回にわたり,それぞれ別の毛髪に対する蛍光X線分析を行い,そのいずれにおいても,毛根から約5センチメートルの部位に数ミリメートル幅で高濃度の砒素が局在しているとの分析結果を出している」と述べているから,「48ミリ」が証拠として有効だと主……
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(2023年06月07日公開)