連載 先端的弁護による冤罪防止プロジェクト

先端的弁護による冤罪防止プロジェクト、始動!
第3回

幼児の突然死が父親の虐待(窒息死)と疑われた事案【支援事件報告】

川上博之 弁護士


⬛︎1 事案の概要

 本件は、家庭内で起きた幼児の突然死について、父親の虐待(窒息死)が疑われた事案である。「先端的弁護による冤罪防止プロジェクト」(以下、「本プロジェクト」という)の援助を受けて弁護側証人(法医・遺伝子診療科医)の証人尋問が実現した。その結果、弁護人が主張した「遺伝子変異の影響による致死性不整脈等が生じて死亡した可能性」が認められ、無罪となった((大阪地裁令和4年12月2日判決・LEX/DB25593970。))。本件は検察官控訴なく確定している。

 事件が起きたのは2019(令和元)年5月のことである。父親が実子A(生後7か月)を自宅浴室で座らせていた際にAの容体が急変し、救急搬送されるもその後死亡が確認された。司法解剖の結果、Aには陳旧性のものを含む肺胞出血等があることから、数日にわたり反復した窒息が生じていたと疑われ、事件発生日にも父親による頸部圧迫等の暴行が加えられたことが疑われた。

⬛︎2 争点と弁護活動の準備

 検察官が請求した鑑定書から伺われる窒息死の根拠は、標準的な医学書((池田典昭=木下博之『標準法医学〔第8版〕』(医学書院、2022年)等。))の基準を当然に満たすものではなかった。もっとも、検察官もそれは前提としており、消去法的な手法や、臨床経過との整合性、肺胞出血の反復性等から窒息死を主張してくることが予想された。

 そのため、解剖結果から認められる所見からは本件の死因を窒息死とすることは誤りであることや、解剖結果を矛盾なく説明できる別の死因を弁護側から主張することが重要と考えた。そのために多くの医学文献を参照し、専門家に意見も求……

(2023年04月24日公開)


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