連載 和歌山カレー事件

和歌山カレー事件
刑事裁判のヒ素鑑定の誤りを見抜いた民事裁判
第2回

林真須美頭髪鑑定は,鑑定人が「自ら測定を行ったものではない」「その正確性に疑問があるというべきである」「どの程度確立しているかについて不明確な点も残る」(下)

河合潤 京都大学工学研究科教授

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5 無実の証拠の削除

 第1節で,山内助教授が㋑と㋺という「二つの高精度な砒素分析において,異常な砒素を共通して検出し一致した」(甲63p.5)と結論したことを引用した.「共通して検出し一致した」理由は,一致しないデータを中井教授が削除したからだ.

 中井教授は,連載第1回で述べた林真須美関連亜ヒ酸と,カレーに混入された亜ヒ酸とがどちらもビスマスなどの不純物を含むから「同一物」だとする鑑定を1998年12月11〜13日に兵庫県のSPring−8で行った.つくば市のPFに移動して,12月14〜16日には,林関連亜ヒ酸とカレーに混入された亜ヒ酸の両者からモリブデンを検出し,さらに林頭髪の48ミリにヒ素を検出した(図表3).

 そこで中井教授は,SPring−8なら,林関連亜ヒ酸に先天的に含まれる微量のビスマスやモリブデンなどの元素が,頭髪の48ミリに付着する亜ヒ酸粒子からも検出できると考えて,再びSPring−8に戻る途中の12月18日午前2時ごろに,高速道路のインターチェンジまで山内助教授に追加の林頭髪を持ってこさせて受け取り,12月18,19日にSPring−8で林頭髪鑑定を行なった.

 ところが,SPring−8の12月18,19日の頭髪鑑定では,「いや,それは実際に《林頭髪を》測定してみまして,砒素すら検出できなかったので,《データは》残っていません」(第43回公判速記録中井泉証⼈尋問調書p.29)と証言し,ヒ素が検出できなかった林頭髪のSPring−8の測定データ,すなわち林真須美が無実だという証拠をコンピュータから消去したことを公判で証言した.

 中井教授は,SPring−8……

(2023年04月18日公開)


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