連載 刑事司法における IT 利用の光と陰

刑事司法におけるIT利用の光と陰
第10回

IT利用の「陰」——監視型捜査からデータ駆動型捜査の時代へ

指宿信 成城大学教授


1 はじめに

 第1回で予告していたように、連載の後半ではITを利用した刑事司法の「陰」の部分、すなわちIT利用捜査を取り上げることになります。もちろん、犯罪予防や犯罪摘発にとってIT利用が「光」となることを否定するわけでは全くありません。しかしながら、新たな法律を作らない限りGPS利用捜査を認めることができないとされた2017年の最高裁大法廷判決の事案で明らかになったように((最大判平成29年3月15日刑集第71巻3号13頁。))、高度なITを用いた捜査手法がこの国で令状なしに全国各地で幅広く用いられていたことがありました((GPS利用捜査についての詳細は、指宿信編著『GPS捜査とプライバシー保護——位置情報取得捜査に対する規制を考える』(現代人文社、2017年)参照。))。

 生体証拠に残されたDNA情報を用いて犯人を特定する手法も捜査に利用されているテクノロジーの一例ですが、現場に残されたDNA情報との照合を行うためのDNAデータベースについて、日本では法制度がありません。そんな国は先進国では見られません((多国間のDNA利用捜査に対する規律を概観するものとして以下、参照。Swiss Institute of Comparative Law, “The regulation of the use of DNA in law enforcement”, (2020). オーストリア、ベルギー、カナダ、デンマーク、スペイン、フランス、ドイツ、イタリア、オランダ、スロバキア、スウェーデン、台湾、英国、米国、EUが取り上げられている。))。GPS利用捜査でも同様で先進国ではいずれも何らかの法的規律を持っています((各国の詳細は前掲『GPS捜……

(2023年03月31日公開)


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